イヴ=マリー・ベルセ『真実のルイ14世:神話から歴史へ』

真実のルイ14世―神話から歴史へ

真実のルイ14世―神話から歴史へ

 ルイ14世について、14のテーマから解説する本。「宮廷は滑稽極まりないところだった」「ルイ14世には多くの愛人がいた」など人物像、「ルイ14世は最初の絶対君主だった」「ルイ14世はナントの勅令を廃止すべきではなかった」など政治的な動き、「ルイ14世フランス革命の先駆者である」「ヴェルサイユの建設工事が国を滅ぼした」といったルイ14世の治世の持つ意義などに渡る。現在の感覚から、過去の人々の言動を断罪するのではなく、当時の感覚や文脈の中で認識しようとする態度は、まったく賛同する。非常に練られた議論がなされている。
 17世紀、ルイ14世時代のよくできた入門書。巻末の文献案内がいい。著者の研究史の文献解題と訳者による日本語文献の紹介。前者は、当然フランス語の本。事典類から各種テーマまで網羅されている。西洋史の卒論の指導に便利そうな本だ。これ読ませて、その後、ここに紹介されている文献を選ばせて読ませると。そこから報告させれば卒論の体裁はとれそう。おもしろそうな本が紹介されているのだが、当方フランス語ワカリマセーン。今さら、勉強する気にもならんというか、英語の本も読む気にならないが。
 興味深いと思ったのは1、「宮廷は滑稽極まりないところだった」と5、「ルイ14世は身体を洗ったことがなかった」あたり。
 戯画化されがちな宮廷の「エチケット」がルイ14世の時代の特殊な例であり、宮廷を王の威信を表現するべく劇場化したのはルイ14世の個人的な考えであったこと。そのエチケットはルイ14世の晩年には、はっきりと打ち捨てられつつあったことが興味深い。
 あと、実際にルイ14世は身体を洗ったことがなかったらしい。この時代には身体を洗いすぎるのはよくないと医師に忠告されるように、水で身体を洗うことがあまり良いことだと思われていなかったこと、どんな時でも裸になることが恥ずかしいことと考えられていたことから、身体を洗うことが少なかったらしい。ルイ14世の身繕いは、朝にエチルアルコールを含ませたタオルで手や顔を拭うだけだったようだ。このあたりの恥じらいの感覚や清潔に対する意識の変化というのも興味深いものがある。