菊地浩之『日本の地方財閥30家:知られざる経済名門』

日本の地方財閥30家 知られざる経済名門 (平凡社新書)

日本の地方財閥30家 知られざる経済名門 (平凡社新書)

 三冊目の本書は「地方財閥」を扱っている。地方出身、あるいは地方に拠点を置いて、影響力を持った家々として、甲州財閥・江州財閥などの財閥群と、特定の事業を中心に地域に影響を振るった家々を紹介する。
 意外と有名どころな企業が出てくるな。甲州財閥は首都圏の鉄道がらみでよく見かけるし、丸紅、伊藤忠高島屋、辰馬汽船に川西航空機(現新明和工業)、ノリタケとそれなりになのある企業が出てくる。石炭業主体の九州の財閥でも、安川電機みたいな企業があるし。名古屋の財閥が一番地方色が強い感じか。まあ、いちばん大物の豊田がすでに出ているってこともあるのだろうけど。あと、醸造系は江戸時代からの同族企業が強いのが印象的。阪神地域の菊正宗酒造白鶴酒造の嘉納家や白鹿の辰馬家、醤油の浜口家、茂木家、酢の中埜家と、歴史も、市場支配力もある。機械工業系の島津、中島、服部家も、個人的にはおもしろかった。
 しかし、こうやって系図にして整理すると、大手企業の重役って、結構門閥に支配されているんだなあと改めて感じる。あと、東大・京大の教授あたりも、結構社会的な背景がありそうな感じだな。大企業の重役や帝大の教授の出自をプロソポグラフィックに調べると、いろいろおもしろいかもしれない。あと、「財閥」としては没落した家でも、別に素寒貧にはなってない感じなのもあれだ。