国立歴史民族博物館編『近現代の戦争に関する記念碑:「非文献資料の基礎的研究」報告書』2003

 中間報告的な報告書。戦争碑に関する検討会の資料と短い研究ノート、そして忠魂碑などのデータ表で構成されている。とりあえず、最初の方の概要と熊本県関係のデータだけコピーした。
 研究ノート部分に関しては言及された文献が載っていないなど、構成があれだが、宗教社会学民俗学、教材としての利用など、さまざまなアプローチが紹介されていて興味深い。
海老根功「私の戦争記念碑の調査について」
今井昭彦「宗教社会学と戦死者祭祀研究」
坂井久能「戦没者記念碑の教材化に向けて」
本康宏史「明治記念標と招魂祭」
樋口雄彦「旧幕臣と静岡の戊辰戦争戦没者碑」
一ノ瀬俊也「忠魂碑と“政治の論理”」
西村明「宗教研究アプローチの現状と展望」
木口亮「戦没者祭祀研究への民俗学からのアプローチ」
粟津賢太「忠霊塔をめぐる言説と宗教社会学的アプローチ」


 静岡の徳川藩関係者の戊辰戦争関連の慰霊碑が地域住民と切れた孤立していたものであったという樋口雄彦氏、忠魂碑建設の意図に軍事への国民の関心の喚起といった意図があったという一ノ瀬俊也氏の寄稿が興味深い。西村明「宗教研究アプローチの現状と展望」が研究史の紹介という点では有益か。とりあえず、ピエール・ノラの『記憶の場』を読まなくてはいけないようだ。避けて通りたかったが…
 最後の粟津論文で紹介されている大日本忠霊顕彰会の中心人物たちの言説が興味深い。大日本帝国と共に戦い、忠霊塔に祀られたことで、「霊的に一体」になる。個人的に、靖国神社とかに引っかかりを覚えるのは、こういう戦没者の霊を国家の力に変える「霊的装置」だったことなんだよな。根本的には変わっていないわけだから、死者の慰霊のためにと、無邪気に参拝する気にならない。