水上貴之『迷宮建造師の狂想曲』

 うーん、非常にいい雰囲気の作品ではあるのだが、疾走感に欠けるというか。特に勇者見習いがうっとうしい感じ。
 自分の記憶を求めて魔剣片手に迷宮に潜り続ける「迷宮潜り」アストは、トラブルに巻き込まれて駆け出し迷宮建造師のメイアが作った試作迷宮に入り込み、罠の連続に力尽きてしまう。自分の作った罠で人が亡くなったと誤解したメイアは、母親の形見の「生命回復薬」を使ってしまうが、実はアストは気絶していただけで。というところから、メイアが泊る宿の女主人から、用心棒とメイアの護衛を頼まれ、一緒に仕事をしていく中で二人の関係は深まっていく。
 「邪神竜」や「大魔王」、「闇の精霊」が出てきて、勇者見習い一行も加わって、最後は大バトル。メイアもアストも父親を恨んでいるという点で共通点があるな。実はアストの父親もメイアの父親も同一人物だったりしないだろうな。
 記憶を求めて狂気じみた迷宮探索を行っていたアストが、最終的には「未来がほしくなった」と言いだすあたりはよかったな。雰囲気は良い。ただ、全体として窮屈というか、そもそも一冊に収まらないネタを詰めた感じなのかね。あと、様々な異種族が共存している社会というのも、楽しい。