是永淳『絵でわかるプレートテクトニクス:地球進化の謎に挑む』

絵でわかるプレートテクトニクス 地球進化の謎に挑む (KS絵でわかるシリーズ)

絵でわかるプレートテクトニクス 地球進化の謎に挑む (KS絵でわかるシリーズ)

 プレートテクトニクスの現在の研究状況を、手軽に知るにはいい本だと思った。地学関係は知識がずいぶん錆びついていたが、なんかおもしろいことになっているな。イラストを多用し、最小限の数式で、門外漢にわかりやすいように解説しようとしている。
 だが、微妙にわかった気がしないところも。特にリソスフェアの話のところ。いや、説明が良い悪いではなく、どうも直感的な理解に反しているというか。部分溶融すると、水分が抜けて粘性が上がるって。あとは熱的リソスフェアとか、力学的リソスフェアとか、化学的リソスフェアとか。うーむ。


 全体としては、プレートテクトニクスの概説、同理論がどのように形成されたか、プレートテクトニクスの過去、他惑星との比較、生命とプレートテクトニクスの関係、これから先どのように変化していくか、まだわかってないことの順番で書かれている。マントルの対流とそれに伴う地球の冷却や物質の交換が、大気や地殻の動向に非常に大きな影響を与えているのだな。
 第二章「プレートテクトニクスの発見」がおもしろい。世界地図ができた時点から、南米とアフリカの海岸線が重なることは指摘されていたこと。19世紀半ばには、大陸が移動していたという議論は存在したこと。ウェゲナーの貢献は、20世紀前半時点でのさまざまな知見を総合し、大陸が移動していたことを議論したこと。しかし、彼の議論のやり方が、当時のアメリカの議論の作法と反していたため受け入れられなかった。また、50代で事故死したため、後継者や議論の継続がかなわなかったために埋もれていったという。その後、古地磁気の測定が可能になったこと、同位体分析による年代測定の精密化、固体であるマントルが対流することが物理理論としてまとめられるといった進展によって、初めて確固たる枠組みとしてプレートテクトニクス理論が形成されたこと。そういう意味で、比較的新しい学問分野だという。


 第三章はプレートテクトニクスの原動力となる対流についての解説と、プレートを構成するリソスフェアがどのようなものかという話。ここらは、わかったような、わからなかったような。「枯渇したマントル」という用語が、腑に落ちないのだが。以前読んだ、『地震と噴火は必ず起こる』では、プレートの動きは、いったんプレートの沈み込みが始まれば、後は自己の重みで動くと述べていたが、本書では微妙に論調が違うような。


 第四章「プレートテクトニクスはいつはじまったのか」は、過去の状況を解説している。過去の岩石などの証拠は、時代が遡るごとに少なくなる。生物化石などの指標が使える顕生代、生物の化石はほとんどないが岩石資料がそれなりに存在する原生代、グッと資料が少なくなる太古代、さらにほとんど資料が存在しない冥王代と分けられる。後三者は、昔は先カンブリア時代と一括されていて、わたしもそう習ったところだな。
 2億年ほど前までは、海洋プレートの情報があるので、それを元に再現できる。また、太平洋プレートは1億6000万年ほど前に、周囲のプレートを押しのけて発達した、新興のプレートであること。化石や岩石の地磁気と絶対年代の確定によって、それ以前もある程度は再現できる。造山帯やその活動によって作られたジルコンの年代測定から、30億年前までに、四つの超大陸が存在していたらしいことがわかるという。
 原生代には、マントルの持つ熱は大きく、従来マントルの対流活動は激しかったと推測されてきた。しかし、岩石の化学分析から得られる、ゆったりと冷却され、比較的新しい時代ほど冷却が進んでいるという結果とは矛盾していた。しかし、マントルは熱いほど、ゆっくりと対流するという新しいモデルを導入すると、このような他の証拠と近似するという。
 あるいは、冥王代にすでにプレートテクトニクスが始まっていた可能性とか、プレート運動を伴わない硬殻対流の話とか。


 第五章は他惑星のプレートテクトニクスの話。他の地球型惑星では、地球のような地震計によるデータなど多様なデータが入手しにくいという。特に金星は、二酸化炭素による高温と大気中の硫酸によって地表でのデータ収集が難しいこと。水星も、軌道への投入やデータの採取が難しいという。金星はともかく、火星や水星に地震計を持っていったらおもしろそうだけどな。
 他の惑星では、地球のようなプレート運動が見られないこと。金星は、クレーターの分布状況から推測される地殻の形成年代が非常に新しく、いろいろと議論になっている。火星は、地球の海洋地殻のような、縞状の地磁気異常が見られ、過去にはプレートテクトニクスがあった可能性。
 惑星大気に対するプレートテクトニクスの影響も興味深い。マントルから供給される二酸化炭素、それに対し、地球では海洋が存在したことによって、二酸化炭素が海底に蓄積され、それが再びマントルに戻っていくというリサイクルが起きていたこと。これが、地球と金星の運命を分けたのではないかという。また、プレートテクトニクスによる激しいマントル対流は、外核の液体金属の対流を促進し、これが大気が太陽風によって剥ぎ取られるのを防いでいるのではないかという話も興味深い。液体の海が存在したことが、地球の活動全体に影響し、それが今度は海や大気を守るというダイナミックな相互作用。


 第六章は生命とプレートテクトニクスの関係。大気の二酸化炭素が適度な量に抑えられた理由として、液体の水の存在と、岩石の風化作用によって二酸化炭素が反応し、海底に蓄積される「ユーレイ反応」の存在。生命によらず、二酸化炭素濃度は制御されていたのか。あるいは、酸素が現在の濃度であるのはなぜかはよく分かっていないとか、大型陸上植物の酸素供給への影響は大きそうだとか。
 海水面の変動とプレートテクトニクスの話。太古代には、海水の量は現在の1.5倍ほどあったが、プレートによってマントルに吸い込まれているとか。このあたりの議論はよく分からなかった。
 あるいは、洪水玄武岩や海台といった超巨大火山活動と生命の大量絶滅の関連とか。海台や洪水玄武岩の形成年代と生物の大量絶滅を比較すると、かなり重なって見えるのだそうで。生命絶滅の謎はまだまだ深い。


 あとは、地球の今後。だんだんと冷却して、プレート活動はなくなるはずだが、その前に太陽の核融合活動の活発化による海水の蒸発で、地球に生命は住めなくなるという。あるいは、まだわかってないことなどが紹介される。
 読んでいるときは判ったような気分だが、改めてまとめようとすると、難しいな。


 以下、メモ:

 ちなみに、リソスフェアは「岩石からできている層」という意味ですが、その下にあるアセノスフェアも固体である岩石からできています。プレートやリソスフェアの下にはどろどろに融けたマグマ(溶岩)があるように描かれたイラストもたまに見かけますが、これは間違いです。厳密にいうと、アセノスフェアは少しだけ融けていることもありますが、それでも完全に融けている状態のマグマにはほど遠く、基本的には固体と思ってよいでしょう。プレートの下にある熱いマントルは「液体のように柔らかい固体」という一見矛盾した表現を使って説明しないといけないのですが、このことはじつは、プレートテクトニクス理論が誕生するまでにかなり時間がかかった原因のひとつでもあるのです。p.7-8

 うーん。そりゃ、頭が混乱するわ。