鴨志田一『神無き世界の英雄伝』

神無き世界の英雄伝 (電撃文庫)

神無き世界の英雄伝 (電撃文庫)

 今は青春小説で売れている鴨志田一氏のデビュー作は、スペオペ戦記物。艦隊の運用を司る「電子妖精」という存在が、独自性をもたらしているな。


 宇宙艦隊の旗艦には、情報処理能力に優れた「電子妖精」が存在する。艦隊を指揮する提督になるには、電子妖精から選ばれ、契約する必要があった。
 「契約の典礼」において、22歳の、財閥の御曹司にして士官学校主席のロイ・クローバーは、順当に、電子妖精コーデリアに選ばれる。しかし、もう一人の電子妖精オフィーリアは、士官教育も受けていないコックのレン・エバンスが選ばれる番狂わせが起きる。


 人類世界第三位の有力星間国家「人民共和国」は、腐敗により自壊しようとしていた。共和国内の巨大企業コングロマリットは、それに対し「企業連合」を建国することで、自壊から逃れようとする。その一員である、ロイ・クローバー、そして、新たに艦隊指揮官の地位を得たレン・エバンスも、その独立戦争に身を投じていく。


 共和国軍の主力艦隊が外征に出ている隙を突いて、順調に、戦果を拡大していく企業連合軍。しかし、外征艦隊に加わっていた名将クラウディオ・アレンティーノの迅速な帰還によって、大損害を受け、追い詰められる企業連合軍。
 起死回生の策として、ロイ・クローバーとレン・エバンスの二提督による首都星系侵攻策を決行。しかし、それを読みきっていたアレンティーノは、巧に戦力を入れ替えて、待ち受けていた。
 優勢な敵に対して、レン・エバンスは大胆な兵力の入れ替えを提案。極少数の戦力で、アレンティーノ艦隊を翻弄。最後は、とどめを刺すことに成功する。心の支えとなっていたアレンティーノの撃破で、独立を達成する企業連合。しかし、その勝利は、最大勢力である銀河連合の遠征軍撃破と侵攻によって、色あせることになる。


 やはり、立体映像で触れ合えない電子妖精という存在が、独特の風合いをもたらす。特に、クラウディオ・アレンティーノと彼を選んだ電子妖精ロザリンドの悲恋が印象的だな。互いに愛し合いながら、決して結ばれない。戦場に散っていく二人のラストシーンが、他を圧して、輝く。