『歴史群像』2019/4号

歴史群像 2019年 04 月号 [雑誌]

歴史群像 2019年 04 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2019/03/06
  • メディア: 雑誌

山崎雅弘「朝鮮戦争:前編:北朝鮮軍の侵攻と国連軍大反攻」

 ソ連も、アメリカも、朝鮮半島をどうするか、確たるビジョンはなかった。また、現地で組織された「臨時政府」も、日本の植民地統治に取り込まれた「親日派」有力者を中心都市、日本の総督府と裏でつながっていたため、連合国に無視されてしまった。しかも、アメリカ側は共産主義者が多数を含まれているのを警戒。
 アメリカ側は日本の総督府を利用しようとしたが、抗議運動で失敗。親米派朝鮮人を送り込む。一方、ソ連民族派の重鎮曺晩植を首班に、ソ連の工作部隊から選抜した朝鮮人を送り込む。
 米ソ対立による冷戦の発生。アチソンラインで韓国が除外されたことによるアメリカ不介入の可能性と、韓国国内の政治的混乱から侵攻すれば内部崩壊するという金日成の錯誤。さらに、李承晩を信用していなかったアメリカが先制攻撃に踏み切ることを警戒して韓国軍に銃装備を供与していなかった戦力の不均衡といった要因が、朝鮮戦争の伏線になった。
 ソ連から供与された銃装備と日中戦争で実戦経験を積んだ兵員で編成された北朝鮮軍は、韓国軍・米軍を圧倒し、釜山まで追い詰めるが、そこで息切れ。本土からの増援をえた国連軍が仁川に上陸、ソウルを奪回し、形勢逆転。中国国境近くまで逆侵攻するが、そこで中国軍の介入を受けて押し返される。ソウルの市街戦に10日もかかっているのか。
 これ、ソ連中華人民共和国を「中国代表」とするために安保理をボイコットしていなかったら、どうなったんだろうか。あとは、北朝鮮軍がどのように消耗していったのかも気になる。

白石光「ドイツ西方総軍の壊滅:リュティヒ作戦とファレーズ・ポケット」

 ノルマンディーの防衛戦が破られてから、ファレーズ・ポケットでドイツ軍が壊滅するまで。西端のアヴランシュが破られ、ドイツ側が逆包囲を受けそうになっているなか、ドイツ側はそのまま戦線を下げるか、いったんアブランシュを塞いで撤収するか、二つの手段を検討する。しかし、ヒトラーに案が上がったところで、限定攻勢が本格攻勢にすり替えられてしまう。しかし、消耗しきったドイツ軍に本格的攻勢でアブランシュを落とす力は無く、攻めあぐねている間に、南から迂回してきたパットン麾下のアメリカ軍に逆包囲される。
 最後の最後で、包囲網の袋が閉じられなくて、かなりの兵員が脱出に成功するが、それでも、10万人居た兵員の半数が戦死か捕虜になっているのだから、大損害だよなあ。壊滅としか形容できない惨事に。

三島正之「房総里見氏の興亡」

 しかし、この位の大名でも、近世初期をくぐり抜けられないと、一次史料がほとんど残らないのだな。家臣団も、根こそぎ、どっか行っちゃっただろうし。棟札あたりが、有力史料となる。まあ、それだけ戦火や災害を受けていない土地と言うことだろうけど。
 古河公方大戦略の一環として安房に送り込まれた里見義実。その子孫は、安房を押さえ、着々と上総に勢力を広げ、北条氏と争う。しかし、豊臣秀吉の時代に安房一国に減封。さらに、近世初頭に改易されてしまう。義通・義豊の前期里見氏。派閥抗争の上で生き残った実堯の系譜が後期里見氏として後代に残る。小弓公方と結んで第一次国府台合戦に臨むが、惨敗して小弓公方は滅亡。しかし、この時、ダメージを最小限に抑えた里見氏は、上総武田氏の混乱をついて上総を制圧、北条氏と争う。第二次国府台合戦の敗北や正木氏の反乱で差し込まれるが、三船山の戦いの大勝利で、一気に優位に。しかし、上杉謙信の関東方面からの撤退で、北条氏と和睦。戦国時代を生き延びる。

守屋純「ドイツ海軍再建の舞台裏:エリッヒ・レーダーの見た夢」

 なんというか、本当に「夢」だなあ。その夢の実現が、外交にどう影響するのかがまったく見えていなかったあたりも。レーダーとヒトラーの結託による、巨大海軍の妄想。イギリスを敵に回さない海軍拡張を目指しつつ、実際にそのための交渉はおざなりにしてしまった。
 結局、イギリスとの戦いを避ける前提で建設されていた主力艦は、イギリスとの開戦によって無用の長物になってしまう。結局、一番活躍したのは潜水艦だった。ある面で、第一次世界大戦のドイツ海軍と同じ構図を繰り返しているな。海軍軍拡でイギリスを刺激する。

樋口晴彦「人造石油を量産せよ」

 知れば知るほど海軍への印象が悪くなる話w
 早い段階から石油の供給が絶たれる可能性とそれへの対処が検討されていた。しかし、海軍が開発した石炭の液化加工法は未熟であった。ドイツの技術の売り込みもあったが、海軍が面子の問題から反対し、お流れに。結局、まともに石炭の液化はできなかった。ダメじゃん。
 石炭液化技術と人造石油生産についての甘い見通しが上層部に伝えられ、それが、重要な決断の場面での根拠になってしまう。というか、開戦直前の状況で、人造石油はほとんど空手形と知らされたら、頭痛しかしないだろうなあ。
 稀少な特殊鋼をはじめ、資源を食い潰しただけという。

坂本犬之介「再検証:奥羽越列藩同盟

 「正義」を求める交渉団体みたいなもので、時代認識の問題ではなかった、と。しかし、薩長を核とする新政権は、むしろ武威を上げるために、戦争を仕掛けようと居丈高な態度で接し、結局戦争になった。明治政権、ホントに感じ悪いな。
 共和政治、それにともなう会津・庄内両藩の赦免の要請が主な大義であった。大義があったからこそ、東北の小藩も進んで参加した。ある意味では、近世の「政道」意識の終焉という感じだな。
 それを押しつぶした明治政府に省みるところはないか、という話。実際、その後の内輪もめや政争、腐敗なんかを考えるとねえ。

手塚正己「海軍軍医の太平洋戦争」

 武蔵乗り組みと駆逐艦清霜乗り組みの2人の軍医のエピソード。
 平時には、虫垂炎の手術が多いとか、性病の扱いが酷いとか、結核が恐ろしいとか。戦闘では、航空攻撃の被害が大きい。いや、もう、爆弾被害の負傷者は、ちょっと文章見ただけできっついなあ。それでも、武蔵の場合は、ゆっくりと沈んだからマシだった感がある。でも、沈没時に重傷だったものは、助からなかっただろうなあ…
 どちらも、無事に内地まで帰り着いているのが、運が良いな。

時実雅信「ラバウル空襲」

 1943年11月に行われた、米空母部隊によるラバウル攻撃の話。ソロモン諸島の要衝ラバウルは、この時期にも、まだ重要な拠点だったわけだ。で、ここいらの攻勢で維持できなくなった。
 島伝いに飛ぶ陸上機の爆撃機は、事前に察知されて迎撃される。空母艦載機だと、それがやりにくいのかね。それでも、迎撃でかなりの損害を出しているようだが。一方、11月5日の第一次空襲では、ブーゲンヴィル島に上陸した米軍への反撃のため、重巡洋艦をはじめ、艦隊が集結していたが5隻が損害を出して、頓挫。大損害だなあ。
 11月11日の第二次作戦でも、在泊艦艇が大損害を出し、泊地としての機能を失った。もう、ここいらで完全に守勢だなあ。
 ブーゲンヴィル島は、熊本の第六師団がいて、忠魂碑でも、そこでの死者が多いので印象深い。

古峰文三「日の丸の轍.04:戦時型蒸気機関車

 昭和18年でも、国内では経済活動が活性化して、旅客需要が激増していたのか。あちこちに軍需工場が出来たから、行き来する人も当然増えるわな。一方で、貨物輸送・軍隊輸送も増えて、輸送能力の限界に達していた。で、それに対応するのが戦時生産型の機関車だった。しかし、日本の戦時生産は、ドイツの物ほどの徹底は欠いていた。逆に、だからこそ、平時に、戦時型機関車を改修して、しのぐことができた。つーことは、ドイツの戦時型機関車って、どうなったんだろう。
 日本の線路の許容軸重の低さが、輸送力の限界をもたらしていた。あるいは、戦前戦後の輸送力維持の苦闘など。

三島正之「戦国の城:安房江見根古屋城」

 文書史料の存在しない「謎の城」。勝浦正木氏の港湾確保のための城だったのではないかという話。つーか、戦国時代、「謎の城」大杉問題。杉山城も文献史料ないんだよね…

有坂純「縦横無尽!世界戦史:高出力レーザー兵器:第3回レーザー兵器の課題と展望」

 なかなか、現実的にレーザー兵器を実用化するには、ハードルがいろいろとあるようで。そもそも、破壊力の運搬手段としては運動エネルギーがほとんど無いレーザーは不利とか、排熱の問題がある。一方で、そのスピードと直進性は、現在の兵器を圧倒する。
 金属を貫通するには、蒸発した金属プラズマを抑止するパルス・レーザーの方が良いとか、そもそも大気そのものがレーザー兵器の障壁になるとか、自身が発生する熱による歪みが精度を下げるとか。それに対する解決法も、またSF的な素材だなあ。
 レーザー兵器も、避弾経始が意味をもつというのがおもしろいな。斜めにしてスポットサイズを大きくしちゃう。可動式シールドが割と有効なのか。