西澤丞『鋼鉄地帯:日本の現場「製鉄篇」』

鋼鉄地帯 (日本の現場「製鉄篇」)

鋼鉄地帯 (日本の現場「製鉄篇」)

 昨日に続いて、「現場」を活写した写真集。今回は、製鉄の現場。
 しかしまあ、造船もそうだけど、造船以上に、写真だと全体が見えない感じが。コークス炉だの、焼結炉だの、高炉だの、熱風炉だの、馬鹿でかい設備がぞろぞろあって、全体像が見えない。炉本体に、配管が取り巻いていて、本当に、どういう仕組みなんだろう。
 衛星写真なんかで製鉄所を見ると、全体に茶色く見えるのだけど、あれって、鉄鉱石の酸化の色なのか、わざと錆びさせているのか。


 JFEティールの協力のもとに、製鉄の工程を紹介する。原料である石炭、鉄鉱石、石灰石を貯蔵する原料ヤードから始まって、原料を高炉に投入する準備段階のコークス炉や鉄鉱石の焼結炉。高炉での銑鉄生産。転炉での製鋼。そこから、連続鋳造による素材のブロック製造、圧延で厚板・薄板、矢板や鋼管といった製品を製造。梱包出荷。
 転炉と連続鋳造の間の工程である「二次精錬」については、完全に省略されているけど、ここが品質を決めるキモなんだろうなあ。ここで最終的に成分を調整して、高級な鋼材を生産する。みせられないよ!つーやつなんだろう。


 原料ヤードは、あまり紹介されないから興味深い。材料を貯蔵・搬出するスタッカとか、リクレーマといった、バケットホイールエクスカベータみたいなメカがかっこいい。
 あとは、高炉周りのディテール。出銑口はドリルで穴を開けるとか、三時間ごとに別の口に変える。高炉や羽口は、溶けないように冷却水を循環させて冷やしている。品質チェックのサンプル採取が滅茶苦茶熱そうなのだが…
 高炉から出た銑鉄は、取鍋で転炉まで運んで、酸素を吹き込んで炭素やリンを除去。鋼鉄となるわけだが。この、取鍋を運ぶ鉄道がかっこいい。そして、転炉に銑鉄を投入するところの連続写真が大迫力。
 そして、鋼材ブロックを製造する連続鋳造。この部分、どういう処理をやっているか、機械の外からは全然見えないのな。なんか、パイプが滅茶苦茶ついた機械が、メカメカしい。
 最後は、圧延して板に加工。鉄材のブロックを押しつぶすワークロールって、どんな素材で、どんな風に作られているのだろうな。ガンガン消耗して、交換するものらしいが。板材の端は、切り取られるそうだが、これまた、転炉に放り込むスクラップとして利用されるのだろうな。
 最後は出荷。鉄材は磁石でくっつけられるから、まだ、楽な感じだな。重量物だけに、船での出荷が多い。鉄製品の工場は、だいたい、岸壁があるよなあ。


 末尾インタビュー記事も興味深い。温度管理がキモ。シミュレーションして、上げたり下げたり、調整する。それに失敗すると、性質が変わってきてしまう。最後の、エネルギー調整の話が興味深い。高炉などで使った熱エネルギーやガスを使いまわす。最近は石炭の使用を節約しているので、ガスなどのやりくりが難しくなっているとか。
 あとは、一歩間違うと大事故につながるから、安全管理の重要性。溶けた鉄に落ちたなんて話は、ネットでも出てくるしな…


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著者インタビュー:
特別インタビュー|『鋼鉄地帯 日本の現場「製鉄篇」』特設サイト - 西澤丞/太田出版
Make: Japan | 『鋼鉄地帯』発売記念、西澤 丞さんメールインタビュー「鉄の熱さまで感じられる写真集になった」