徳田八郎衛『間に合った兵器:戦争を変えた知られざる主役』

 先に読んだ同著者の『間に合わなかった兵器』の続編的著作。今度は、間に合った技術いろいろ。ドイツの戦車、日本の隼、イギリスのハリケーンと両国の二番手戦闘機、アメリ海兵隊上陸用舟艇群、イギリスとアメリカの技術協力によるレーダーやペニシリンの開発などが紹介される。
 しかしまあ、ドイツの機甲戦ドクトリンやイギリスの空軍増強計画、隼の計画をめぐる話など、古峰文三氏の著作やそれが反映している欧米の研究状況を考えるに、物足りなさを感じるな。ドイツ軍戦車、実は結構間に合って無くないかという感じが。特に、MBTとして構想されていたはずの三号戦車が、出てきた時点で火力不足だった当たりとか。
 あと、ある程度以上の規模になると、技術論が組織論になる感じが。とある技術を適用した装備を行き渡らせ、用法を訓練する。そのためには、果てしない会議と議論しか見えない。どんな風に将来戦を予測し、それが、どうグダグダになったかみたいな話に帰着しそうだな。上陸用舟艇の話なんか、思いっきりその範疇で、個々の技術よりも「海兵隊」という揚陸戦を主任務とする組織の出現と権限の拡大のほうが、個々の装備の開発の経緯より重要そう。
 結局、後から出たスピットファイアに主役の座を奪われてしまったわけだが、戦前のイギリス防空の構想では、ハリケーンこそが主力戦闘機の本命だったんだよなあ。隼は、あれで、当時としては重戦闘機的なイメージで構想されたものらしいし。


 イギリスとアメリカの共同作業で実用化が進んだレーダーやペニシリンの話も興味深い。レーダーについては、それぞれの軍のニーズで、微妙に重点が異なる。イギリスが防空用の対空レーダーを重視したのに対し、アメリカ軍が艦載レーダーを必要とした経緯。
 続いては、ペニシリン。日本が、学者の動員に、かなり失敗しまくっていたのに対し、アメリカはどちらかというと実務を、組織実務に長けた学者に任せる形で、成果を出している。特許の相互公開や製薬メーカーの培養生産への誘導。一方で、国は、当面実用化しそうにない化学合成に研究にリソース投入。ある意味、発酵を利用した、力づくの生産で、戦争の必要を賄ったわけか。
 しかし、ペニシリンの使われ方を見ていると、日本軍がペニシリンの製法を知っても、有効に活用できたか怪しい気がする。コールドチェーンの構築とか必要そうだし。