永田龍太『中世ヨーロッパの武術』

中世ヨーロッパの武術

中世ヨーロッパの武術

 うーむ、図書館の書庫本を借りだしてきたけど、こちらの知識の無さと、本書の情報量の多さで、さっぱり頭に入ってない。そもそも、日本の剣術の特徴が、高校体育の剣道どまりだから、日本の伝統的な剣術の型との比較できない。ソレと比べると、中世ヨーロッパの剣術は、半身になった姿勢が特徴なのかな。あとは、剣を回した戦い方が特徴なのかな。後ろ向きからの防御と攻撃なんてのもあるし。
 ヨーロッパの武術についての手がかりを残したフェシトビュッフが難解というのは、日本の江戸時代あたりまでの武術の秘伝書が、予備知識が無いとまったく何を表現しているのか分からないし。口伝による伝承の割合がかなり多いのは、洋の東西を問わずか。
 投げ飛ばして、戦闘不能にする技術も教えられるというあたりは、日本の剣術と柔術の関係に近いのかな。本書で紹介されるレスリングは、むしろ古代あたりの相撲的な感じがあるけど。
 そういえば、ムスリム剣術なんかもあるのかな。


 第一部は概説。現在の手がかりとなるフェシトビュッフの紹介。中近世ヨーロッパの武術の基本的な姿勢や動かしかた。そして、各国ごとの流派。多くの文献が残されているドイツ式が一番研究が進んでいる。幾何学など、学術を取り入れようとしたイタリア式。防御重視で、後ろへの動きを多用するイギリス式。各国の剣士から高く評価されたスペイン式。レイピア術はスペイン発祥だが、スペイン式の円を描くような独特のステップは、直線的な現代フェンシングの一般化で消失か。


 第二部は、それぞれの武器における型や技の紹介。ロングソード、レスリング、ダガー、ハーフソード、殺撃、鎧格闘、槍、ポールアックス、ファルシオン、片手剣とバックラー、騎乗戦闘、各種の棒、ウェルシュフック、バックソード、ハルバード、レイピア、モンタンテ、大鎌、棍棒、フレイル、異種武器間の戦い方などが紹介される。
 ロングソードの戦い方に、刺突が多いのが印象的。特に、上から斜め下に突き刺す形が多いかなあ。各種のカウンター技が多いのも興味深い。また、ロングソードに関しては、刃の部分も握って戦うハーフソード術や刃を持って柄部分でぶん殴る「殺撃」といった、対鎧の戦い方が多いのも印象深い。
 それだけ、鎧を来ている相手は倒しにくい、と。ロングソード、鈍器としての性能はなさそうだもんなあ。隙間を狙って刺すか、投げ飛ばしてトドメ刺すのが基本戦術となるわけか。
 日本の介者剣術も、似たようなことをするらしいし、切れない相手は、そうするしかないのかな。


 長柄武器の種類がけっこうあるのもおもしろい。槍、ポールアックス、ウェルシュフック、ハルバードなど。だいたい、2メートル半くらいの長さの武器といったところか。ポールアックス、ウェルシュフック、ハルバードはだいたい、似たような性格、刺突、引っかけ、斬撃を兼ね備えた武器と言えるのかな。ハルバードが、2メートル弱と意外に短いのが印象的。
 そして、知らなかったけどウェルシュフックが、イギリス特有の武器で、最強と呼び声の高い武器だったという。武器紹介系の本でも、全然出てこなかったけど。マール社の『武器』とかでも。
 そのような長柄武器の練習として、ショートスタッフ、ロングスタッフ、クォータースタッフなどが使われ、武器としても使用された。


 刀剣類としては、他に、片刃のファルシオン、刺突重視のレイピア、片手剣に小型の盾バックラーを組み合わせた戦い方、大型の斬撃用両手剣モンタンテなどが紹介される。
 ファルシオンの戦い方が、終始、左手を腰の後ろに回しているのが印象深い。リーチはそのほうが長くなるって事なのかなあ。
 バックラー、両手で支えるパターンが多いのも興味深い。


 レイピアにも、相応に記述が割かれている。刺突専用の剣というイメージが強いが、それなりに切ることもできる剣であった。スペイン発祥だが、戦術はイタリアで発展したこと。レイピアは決闘用に発展した物だが、本場のイタリアでは決闘を称揚しつつも、実際の殺し合いは避けたのだが、決闘称揚の理念を輸入したイギリスやフランスでは、マジに決闘を頻繁に行って、多数の死者を出した。そういえば、数学者あたりでも、決闘で命を落とした人結構いたような。
 刺突で早期に致命傷を与える積もりで考えられた武器だけど、実は刺突は致命傷を与えやすいけど、相手の戦闘力を奪う能力は低かった。そのため、決闘の両者が致命傷を負いつつ、延々と戦って、相討ちになるパターンが多かったという。やべー武器だ。おかげで、イギリスでは、若者の武器を使った争いが減ったとかw
 また、初期のレイピアは、ロングソードなどに対向するためにけっこう頑丈な作り。そして、長さはロングソードに勝り、むしろ長すぎと言われていたとか。つばぜり合いは考慮されない。本来、横移動による回避が考えられていたなど。


 ダガー術の、誰でも持っていて、急に攻撃されるパターンが多いため、素手で制圧する術が多いというのが印象的。それだけ、刃傷沙汰が多かったということなんだろうな。
 あと、ヨーロッパの格闘が寝技をあまり重視しないのは、日本では首取るために、押さえ込む必要があったという必要性の差がありそう。


 ラストは、附録ということでフェシトビュッフの著者紹介や文献解題も有用。ルネサンス画家として有名なアルブレヒト・デューラーは、同時に、剣士としても著名で、フェシトビュッフを書いている。
 あとは、アウグスブルクの公金をガメて、豪華なフェシトビュッフを作り上げたマイアーのエピソードが印象深い。最終的に横領がバレて、処刑されたとか。