『新装版 イギリス王室1000年の歴史』

 ここのところ、なろうの婚約破棄もの小説を読んでいて、現実の王様は誰と結婚しているのかなと思って借りた本。歴代の王だけではなく、配偶者や親族などの重要人物にも目配りしているのが便利な本。
 こうしてみると、テューダー朝の時代を境に、ガラッと変わるのが印象深い。中世期には、フランスの王家ないしは有力諸侯からの縁組が基本で、近代に入ってからはドイツないし北欧の王家ないしは諸侯。国教会設立後は、カトリック国から結婚相手を迎えることが出来なくて、プロテスタントのドイツ北部ないしは北欧しか選択肢にならないということなんだろうけど。
 反乱を起こして王になった場合などは、国内諸侯と縁組しているけど、国王は外国から妻を迎える不文律でもあったのかねえ。
 あと、ヘンリー8世の無軌道な結婚ぶりが目立つなあ。男子を求めて、次々と妻をとっかえひっかえしたあげく、子供世代で断絶。せめて、娘二人に早い段階でいい感じの婿をあてがってりゃ、結果は多少なりとも違ったんだろうけど。そもそも、薔薇戦争で正統な後継者がほぼ全滅して、どさくさ紛れの王位だから無理したところはあるんだろうな。


 あと、近代の王朝は女王が出ると替わってるわけだが、今回のエリザベス女王の死去ではウィンザー朝を使い続けるのかな。エジンバラ朝かマウントバッテン朝への改名もあり得る話だが。


 あと、たまにやたらと子沢山な王妃がいるのも印象的。29歳から8人の子供を産んだエレアノール・ダキテーヌ、12人を出産したフィリッパ・オブ・エノー、7人を出産したメアリー・ド・ブーン、同じく7人の子供を生んだアン・オブ・デンマークあたり。
 メアリー・ド・ブーンに至っては、24歳の時に出産事故で死去だから、何歳から子供産ませてるんだという感じだな。
 そして、フィリッパ・オブ・エノーが産んだ子供の子孫がランカスター家やヨーク家となって王権を争ったのだから、子沢山が良いのか悪いのか。




 イギリス中世で悪役と言えばジョン王。婚約者を他所に行かせている間に、婚約者を略奪するというクソ王子ムーヴを噛ましているのだな。というか、どうしてここまで人望がなかったのか、不思議なくらいだなあ。
 つーか、プランタジネット朝の二世代目、どいつもこいつも碌な奴いねーな。物語の善玉であるリチャード1世も、結局、戦争バカなだけだし。親兄弟でケンカばっかりしている一族なんだよな。まあ、それでも、ジョンが甥を謀殺したのは、人望が失墜する行為だったのだろうな。




 プランタジネット朝、なんか頼りない王様続きだけど、なんだかんだ言って250年近く存続したのだな。そもそも、中世の王権は弱いというか、戦争するお金を集めるのに苦労したというか。フランスに利権がある貴族とイングランドメインの貴族で利害が対立するのも、不安定要因だろうし。
 で、15世紀はランカスター家とヨーク家が対立する薔薇戦争の時代。最終的に共倒れで、正統な後継者がいなくなって、血が薄いチューダー家に。それも、三世代で絶えて、その後は外来王朝に。スコットランド王家のステュアート家。それが絶えた後は、ドイツ系王家が続く。議会政治が根付くと、むしろ、あまり強くないドイツの領邦君主を王に据えるのは、楽で良かったんだろうなあ。
 そう言えば、チャールズ2世が、徳川家斉と被るキャラだなあ。結局、今残ってる公爵家って、彼の庶子から始まった家系が多いんだよね。




 敵対派閥の出身者と秘密結婚して、反乱を招いたエドワード4世も、なかなかの愚王っぷりだな。「女のことしか頭になく、女のことになると理性をなくす」って、どんだけ。


 わりと近代に入っても、王様自由だなあ。19世紀に入っても、ギャンブルやイカサマに走る放蕩王ジョージ4世とか、厳しい王族教育に反発しまくったエドワード7世あたりが出ているし。
 というか、なろうの婚約破棄ものの「しっかりした王族」の思想って、かなり儒教的なんだよな。国とか、民という思考が正面に出てくるのは江戸時代の大名、しかもかなり真面目なレベルの人間メインという感じがする。