地方史研究協議会編『日本産業史大系8:九州地方編』

日本産業史大系〈8〉九州地方篇

日本産業史大系〈8〉九州地方篇

とにかく古臭い。「九州の後進性」やらマニュがうんたらなんたらとか、ええ加減にしろとしか…
まあ、初版が1960年だと時代的に致し方ないのかもしれないが。あと、記述が近世に偏っているのも特色。
とりあえず、熊本関係と後半には目を通しているが、事実に関しては興味深くても、まとめ方がアレなので話にならない。


以下、印象に残ったこと。

  • 「肥後の林業」106-123ページ 

肥後藩の森林の管理体制や禁制について詳述しているが、それだけ。史料的な条件で限界もあったのだろうが、近世において藩には強制力がなかった。現地住民の協力を引き出せなければ、どんな規制も空文にすぎない。その部分に踏み込んでいないので話にならない。
そもそも今どきの常識だと、何度も禁制を出している場合、その禁制が機能していないと解釈されるのだが。

漁業の歴史が分かりにくいのは、地先で獲って一日くらいで売りさばく地域の漁業と広範な市場向けに鮭やマグロ、ぶり等を販売する広域漁業の二重構造がごっちゃになっているところにあると思う。ついでに、地元の漁業には史料がすくなそう。
冷蔵・凍施設が存在しない前近代には、鮮魚の流通圏は非常に狭かっただろうし、加工した場合には、どんな加工をして、どのように消費されたかをも説明する必要があると思う。まあ、魚類の流通は高度成長期以降完全に変化したので、それ以前に出版された本書ではその部分は説明の必要のない自明のことだったのかもしれない。50代あたりより上の世代だと、昔は鮮魚はほとんど入手できなかったとか、地域の差異なんか今と全然違う。
九州については、この文では上方漁民の流入が強調されているが、これは市場の問題が大きかったのだろうと思う。近世に入り城下町が成立するまで人口の集中度が比較的低かったため、市場対応型の漁業のノウハウは少なく、それが上方漁民に有利だったのだろう。後々、干鰯などが商品になるまで、距離の関係もあって難しかったのだろう。
…良く考えると、干鰯ってすごくもったいないな。

とりあえず、五和町史編纂委員会編『五和町の民俗「聞き書集」』五和町教育委員会 2000年を読んでから、これを読むとものすごく寒々しい気分になれる。聞き書きに見える、多様な経済活動を掬い取れない「自給自足経済」なぞという概念はくそ喰らえ。
→山口徹『海の生活史:半島と島の暮らし』ISBN:4642055657


久留米絣の歴史http://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber/61/6/P_152/_pdf/-char/ja/