鳥飼香代子編『都市の中の交流空間:台湾人のアイデンティティー空間:道教廟の楽しみ』

都市の中の交流空間―台湾人のアイデンティティー空間道教廟の楽しみ

都市の中の交流空間―台湾人のアイデンティティー空間道教廟の楽しみ

 台湾は台南市道教の廟を素材に、その「交流空間」としての特性を抽出した本。熊日の読書欄に紹介されていたので気になっていた本。表題とカバーのキャッチ―さに反して、報告書っぽい硬い本だった。なんか建築系の本は読むのがつかれる。
 内容は、台南市の廟の概観、大学生に対するアンケートを中心とする利用者の意識、廟の運営形態、廟の空間の利用のされ方について、など。何カ所かで行っている、廟の利用者の行動を追った調査が興味深い。年寄りを中心にたむろっている状況。そのような調査を、利用可能なように表現する難しさ。
 本書では、廟を地域の人を中心にさまざまな人が利用できる空間として注目し、利用状況から交流空間の可能性を探っているが、どうも踏み込みが足りないように感じる。地域の人々の利用を重視しているようだが、その場合、やはり参与観察的な、地域の個人・個人とその関係を識別した、社会学的な調査が必要なのではないか。地域構造の中の廟というのをもっと重視すべきだと思う。
 日本で台湾の廟に相当するのは、神社やお寺だろう。しかし、なんというか空間としてはずいぶんと違うなと感じる。廟公という、雑用係的な人が常駐しているのが、結構大きいのかも。ジェイコブスの『アメリカ大都市の死と生』が指摘するように、見ている人がいるというのは「安心空間」として重要なのではないだろうか。日本の場合、人がいない神社が多いし、居たら居たで、境内が私的空間のようになってしまうように思う。また、地域住民の多くが運営に参画することが、人々が集まる活気のある廟になる条件として指摘されている。この点では、近代に入ってからの神社の系列化は、自治的空間としての神社の生命力を弱めたように思う。私自身がそのような地域の祭祀についてよく知らないという点はあるが、地域内で完結しないというのは、住民の結集の核としては難しいのだろうな。