井田徹治『ウナギ:地球環境を語る魚』

ウナギ―地球環境を語る魚 (岩波新書)

ウナギ―地球環境を語る魚 (岩波新書)

 「ウナギ問題」について、あらかた網羅する本。これを読めばウナギの資源問題についてあらかた押さえることができる。新書に、かなり密度を濃く情報を詰め込んだ書物。付箋を付けながら読んでいたら、新書なのにやたらと大量に貼り付けてしまった。
 第一章、第二章はウナギの生態について。ウナギが産まれてから、産卵し、死ぬまでの生活史と、今まで不明だった産卵場所について。第三章はウナギの完全養殖に諸問題。後半三章はウナギの資源問題。第四章はヨーロッパウナギアメリカウナギの資源量減少と日本のウナギ需要の関連。第五章はニホンウナギの資源減少の問題、特に河川環境の改変や環境汚染。第六章はここ20年ほどに起きたウナギの価格破壊とそれを可能にした台湾や中国におけるウナギの養殖とシラスウナギの乱獲の問題。一読して印象的なのは、日本におけるウナギの資源量や生態に関する情報がほとんど蓄積されていない状況。世界のウナギ消費の七割を占めるにもかかわらず、ニホンウナギヨーロッパウナギの輸入統計情の区別もない状況。正直、最大消費国にしては、無責任の誹りを免れないと思う。
 生態やウナギの研究の歴史などについては先に読んだ、『ウナギのふしぎ』でも同様の知識が得られる。


 第一章はウナギの生活史を描く。マリアナ諸島近辺で産卵・孵化したウナギの稚魚は、柳の葉に似たレプトセファルスに変態し、北赤道海流、さらに黒潮へと海流を乗り換えて、漂いながら東アジアまでやってくる。レプトセファルスは比重が軽く浮遊生活に適していること、レプトセファルスからシラスウナギへ変態する過程で20パーセントも大きさが小さくなる、海流の乗り換えには夜に浅い所に日中は深いところにと運動を繰り返すことによって行っているらしいなどの情報が興味深い。
 シラスウナギに変態すると黒潮を離脱し、川を遡る。ここがいちばん天敵に狙われやすく、新月の夜に、満ち潮にのって一気に遡上する。この際、海水から淡水へと塩分濃度の違う環境に適応する必要があるが、そのステップとなるはずの干潟や湿地などの汽水環境の破壊が、ウナギの生態に悪影響を及ぼしている状況を指摘。ウナギの淡水への適応も興味深い。塩分として自分の体内で生成できる硫酸イオンの利用が生存競争において、大量のエネルギーを使って塩素イオンを取り込んでいる他の淡水魚より優位にあるというメカニズムも興味深い。
 川に入ったウナギは、その後、長い時間をかけて川を遡る。秒速5-15センチ程度のスピードなのだそうで、本当に気の長い話だ。垂直に近い崖や場合によっては陸地を通って遡って行く。その後、さらに成長したウナギは背中はくすんだ緑色に、体側は黄色がかった白に変化する。これを黄ウナギというそうだ。養殖のウナギではこのような色にならず、天然で成熟した印だという。この状態で、縄張りを形成し、成長を続ける。雄は5年ほど、雌は10年ほどかけて、成熟し、産卵のために川を下る。この時期には、体側が銀色になるため「銀ウナギ」と呼ばれる。ウナギは産卵のために海に下ると餌を食べず、体内に蓄えたエネルギーだけで産卵までを過ごす。そのため、体内に大量の脂肪を蓄える。また、消化器官は縮小する。深海を移動するために、それに備えて、目が大きくなり、浮き袋も強化される。その後は深海を泳ぎ、マリアナ諸島の海山で交尾産卵するが、この段階のウナギに関してはほとんど分かっていないらしい。全体として、ウナギって、相当時間をかけて育つものだという印象。あっというまに資源が枯渇するのも納得できる。


 第二章は産卵場所に関して。ウナギの産卵場所は、ヨーロッパウナギにしろ、ニホンウナギにしろ、特定に時間と手間がかかっている。ヨーロッパウナギは、サルガッソー海で産卵していると突きとめるために、デンマーク生物学者ヨハネス・シュミットが1904年から22年と、20年近い時間をかけている。ニホンウナギの場合は、東大の塚本勝巳教授の調査によって卵の採取が話題になったが、1980年代末から長時間かけてグアム島北方の海山であることをつきとめている。東アジア全体で遺伝子の違いが少ない、一つの集団であること。太平洋の海山が生態的に孤立した独自性の高い生態系を構築していること。この貴重な環境が、深海トロールによって破壊される可能性があること。深海トロールでウナギの産卵地も破壊される可能性があること等が指摘される。


 第三章はウナギの養殖の現状と歴史。正直、相当なブレークスルーがないと、商業生産できるレベルにはならなそうだ。
 飼育環境下では性的に成熟しない。また、飼育密度が高いと雄の比率があがるという。しかし、ウナギにホルモン剤を注射して人工繁殖を行うこと自体はずいぶん前に可能になっていたという。1973年には、人工孵化に成功している。しかし、その後、生まれたレプトセファルスに食事をさせるのに時間がかかっている。アブラツノザメの卵、フィチン酸を除去した特別製の大豆ペプチドなどを与えること、飼育施設の改良などで、成体まで育てることに成功している。しかし、「ウナギを見ていると、いったい彼らには生きようとする気があるのだろうかと思ってしまう(p.80)」とまで言われるくらい育てるのが大変らしい。積極的に餌を食べようとしないのだとか。
 現状では産まれた卵から100日まで生きるのが0.026パーセントであるとか、餌に絶滅危惧種のアブラツノザメを使っている状況とか、産卵を誘発するDHPという物質が高価とか、手間のかけ方の問題、奇形率や雌雄のバランスなど、いろいろと問題山積みなのだそうだ。現在の手法では年間100匹程度のシラスウナギの生産がやっとなのだそうだ。


 第四章は欧米のウナギの資源問題。日本のウナギ需要に対応するために、中国の養殖業者が大量に買い付けたことが、それがシラスウナギの価格高騰と乱獲・密漁を引き起こしたという状況を描く。シラスウナギは群れで川を遡上するので漁獲がしやすく、密漁が横行したこと。バスク地方のトレーダーを中心に中国への輸出が行われたこと。対策が後手に回っている状況などを指摘する。
 ヨーロッパウナギの資源量の減少は深刻で、1990年代以降、漁獲量や河川での遡上数が減少している。ヨーロッパウナギの加入量は、1980年代以降減少の一途をたどり、2001年以降にはほとんどゼロに近くなったという。ウナギはわりあい長命な生きものなので、新規加入量の減少から、実際に資源が減少している状況に人々が気づくまでに数年から10年程度のタイムラグがある。結果、気づいた時には手遅れになりがちだという。
 ヨーロッパウナギの減少には、河川改修や水域の汚染も大きな要因だが、乱獲がやはり大きなダメージを与えているという。シラスウナギ漁に加えて、成長したウナギの漁獲の結果、1990年代には、生まれた21億匹のシラスウナギのうち産卵に下る親ウナギは900万匹にすぎなくなったという。また、ニホンウナギ寄生虫がヨーロッパやアメリカに拡大し、在来種にダメージを与えているという。
 同時にアメリカウナギの資源量も減少している。セントローレンス川では遡上量がモニターされていて、資源量が把握しやすいこと。そこのデータによると、1985年までは増加傾向にあり、同年には130万匹が遡上していたこと。それが86年に突然20万匹に減少。さらに93年には8000匹まで減少してしまったという。
 ウナギの資源量はダム建設など河川環境の破壊が大きな影響を与えたと考えられているそうだ。生息域の90パーセントが破壊されたという。さらに漁獲が資源量の減少に拍車をかけている。1960年代以降、ヨーロッパ市場向けの漁獲量拡大、さらに1980年代後半から90年代には日本市場向けのシラスウナギブーム、これらが現在の資源量減少をもたらしたという。
 結局のところ、欧米圏のウナギに関しても、日本市場の影響が隠然として見られること。そのような日本市場の需要が、結局はヨーロッパのウナギ食文化を破壊したこと。さらに旧来からのウナギ漁業者と新規参入者・密漁者間の対立といった地域への影響も見られる。アジアの需要拡大による資源のひっ迫を快く思っていない人もいるのだとか。食文化の尊重という観点からも、現在の日本のウナギ消費のあり方を考える必要がありそうだ。


 第五章はニホンウナギの資源量減少の状況。日本でもシラスウナギ漁の管理はお粗末で、密猟も横行していて、公式統計はどこまで信用できるか分からないが、それからでも減少が見てとれるという。成長したウナギは1969年の3200トンから600トン程度に。シラスウナギは、150トン台から20トン前後まで落ち込んでいるという。このようなニホンウナギの資源量減少が、ヨーロッパウナギアメリカウナギの資源量に影響を与えたという。
 日本の資源量の減少要因としては、もちろんシラスウナギの乱獲が第一に挙げられている。全体の90パーセント以上が漁獲されているとみられているという。ウナギの減少は相当に急で絶滅危惧種に認定するレベルにあるのではないかと指摘する研究者もいるのだとか。
 他の要因として河川や湖沼の環境の改変の影響も大きい。コンクリートの護岸やダムによる遡上の妨害などが影響している。本書では、立川賢一らのグループによるダムの貯水量の指数と漁獲量の減少率の比較研究や茨城県内水水産試験場の研究グループによる利根川河口堰・常陸川逆水門という巨大構造物がウナギの漁獲に与えた影響の研究などが紹介されている。利根川は1960年代には、成魚が1000トンで全国の3分の1、シラスウナギが130トンで全国の80パーセントを占める漁場だった。利根川霞ヶ浦水系は、日本最大級の生息域だった。それが水門の閉鎖後には一気に漁獲が壊滅状態になっている状況には、唖然とさせられる。その下流の河口域では、シラスウナギの漁獲量がある程度維持されているだけに、そのコントラストが鮮明。後は、この手の巨大建設物の環境アセスメントのいい加減さとか。
 また、降りウナギに対する水力発電所のタービンが与える被害や実際に魚が遡上できないような魚道が設置されている現状といった問題。ウナギには階段状の魚道が適しているのだとか。
 さらに、外来種の問題としてヨーロッパウナギが大量に日本に持ち込まれている状況も紹介される。宍道湖では3割、新潟県の魚野川の降りウナギの93パーセントがヨーロッパウナギである状況。ヨーロッパウナギシラスウナギが資源維持のための放流に混ざっている可能性が高いそうだ。また、今のところ、グアム島周辺で産卵するヨーロッパウナギは確認されていないが、そこに適応してしまえば遺伝子汚染の可能性がある。また、ヨーロッパウナギは流れに強く、攻撃性が強いため、ニホンウナギの生息域を圧迫していると指摘している。
 これはウナギを食べる側にとってもゾッとしない話だが、ウナギと化学物質の問題も大きい。化学物質がウナギの個体数減少の一因になっているのではないかという指摘が紹介されている。また、化学物質が滞留しやすい泥の中に住む高次捕食者であり、さらに化学物質が蓄積しやすい脂肪が多いという性質から、欧州ではウナギから重金属や化学物質を検出したという研究報告が相次いでいるそうで、これがウナギの脂肪の代謝や肝機能に影響を与えている可能性もあるという。さらにこれが卵からレプトセファルスへの成長に悪影響を与える可能性も高いという。さらには、このような有害物質を蓄積したウナギが、漁獲されて人間の口に入る汚染のブーメラン。そう考えると、よっぽど上流域のウナギ以外は、いやだなあ。


 第六章は日本の市場とウナギ養殖の変動。1879年に始まったウナギの養殖は、1930年代には天然ウナギの生産量を上回り、第二次世界大戦によって衰退したものの、1960年には復興が進み、天然の生産量の二倍を達成している。さらに加温式、配合飼料などの技術革新によって、1989年にはピークとなる約4万トンを記録する。しかし、その後、国内のウナギ養殖業は守勢に立たされる。1980年代後半からは台湾、さらに90年代には中国が参入してくる。特に中国は安いコストとヨーロッパウナギの養殖に成功したことにより、一気に市場を独占するようになる。このような中国のウナギ養殖が90年代以降の低価格加工ウナギの普及とそれにともなう消費量の激増をもたらした。この時期、中国では相当なブームだったとか。
 結果としてシラスウナギの乱獲と資源の減少、密漁や産地偽装の横行などが起こった。このような狂乱といった感じのブームは2002年に中国産のウナギから使用を禁止されている抗菌剤の検出で終わる。検査強化や中国側の自主規制で、現在はピーク時の半分程度の6万トンまで減少している。結果として国産品信仰となり、価格差が広がっているが、それが産地偽装などの温床になっているという。
 また、養殖の種苗となるシラスウナギは、ニホンウナギでも減少している。結果、日本台湾中国間でのシラスの奪い合い、密輸や密漁を生んでいるという。シラスウナギの密輸は半ば公然のものとなっているようだ。
 このようなウナギの資源管理のためにトレーサビリティ、フットプリントやフードマイレージの導入といった試みも重要だろう。また、台湾の有機養殖の試みも興味深い。


 以下、メモ:

 さて、これまでの深い海での暮らしに別れを告げて、海面近くに浮上し、川を遡ろうとするウナギは、今まで以上に多くの危険にさらされることになる。海面近くにはウナギだけを好んで食べるような鳥もいるし、小さな体の彼らを丸飲みにしようと待ちかまえている多くの魚がいる。深海から浮かび上がり、身を潜める場所が多い河川に入るまで、開けた浅い場所を泳ぎ回る時が、シラスウナギにとっては長い生活史の中で特に危険な時期だと言えるかもしれない。台湾の研究者は、ニホンウナギシラスウナギが開けた場所に大量に姿を見せるのは四週間間隔であることを突き止めた。シラスウナギは、月が明るい夜には比較的深い海の底にじっと身を潜めていて、四週間に一回、それも決まって周囲が暗い新月の夜にだけ、遡上のために開けた場所に姿を見せるのだという。ウナギは天敵に狙われるのを避けるためにこんな術まで身につけているらしい。p23-4

 生命の神秘だよなあ。まあ、人間には通用しなくて、捕りやすいって扱いになってしまうわけだが…

 これは東京大学海洋研究所の最新の遺伝子解析の結果からも明らかになってきた。同研究所の青山さんらが、日本国内各地や台湾など九カ所で採取した五〇〇匹のシラスウナギの遺伝子を解析した結果、各地域のウナギの遺伝的な違いは非常に小さいことが分かった。また、年ごとに取れるウナギの遺伝的な変異も、産卵場所周辺で捕れるさまざまな大きさの仔ウナギの中の遺伝的な変異も非常に少ないことも分かった。つまりもともとニホンウナギは一つの集団で、それがグアム島沖のマリアナ海溝に集まり、遺伝的に混ざり合って産卵し、あとは東アジア一帯にかなりランダムに分散していく、ということを示している。p.63

 これって、産卵場所が一ヶ所しかない可能性が高いよなあ。そこが破壊されたら、そもそも、東アジア一帯のウナギが全滅しかねないと。

 アメリカのウッズホール海洋学研究所を中心とする研究グループによると、高さ1000メートルを超える海山は世界に三万カ所以上存在する。スルガ海山もその一つだ。海山の生態系については、アクセスが困難なこともあって研究は遅れていたのだが、最近の研究で、地上の高山帯に匹敵するユニークな自然が存在することが分かってきた。地形的に他の海域と隔てられていることや、急激な高度の変化などによって多様な環境が作られていることが、生物多様性が豊かな理由だ。研究グループは、海山の生態系は、多くの生物の産卵場所などとしても重要で、海の哺乳類や海鳥を支える役割も果たしていると指摘している。海山には、魚やイソギンチャク、海綿、珍しい深海性のサンゴなどが生息し、ニューカレドニアの海山では生物の三六%、チリ沖の海山では最高で五二%が固有種だったという。海山の環境保全が、ニホンウナギにとっても大切であることが分かってきたのだが、海山の生態系への脅威もどんどん大きくなっている。
 最大の脅威は、技術の進歩によって二〇〇〇メートルの深海部にまで及ぶようになってきた底引き網漁だ。研究グループによると、深海トロールと呼ばれる大規模な底引き網漁によって海山の生態系が破壊される例が各地で多発している。深海にまで及ぶ底引き網漁が一度でも行われた海山周辺では、生物の量が半分に減少。地形の破壊も激しく、オーストラリア周辺の海域などでは、通常一〇%程度である裸地の面積が、漁業の結果、九五%にも達した地域も確認されたことがある。
 国連も二〇〇六年、海の環境に破壊的な影響を与え得る漁法の代表的な例として深海トロール漁を挙げ、米国や欧州など世界各地で、海山の生態系や深海サンゴの群落を破壊するなど、さまざまな影響を与えたとの報告書を発表している。深海では生物の成長が遅いため、大規模なトロール漁は資源に悪影響を与えやすく、既に乱獲の兆しが見えている例もあるとして、予防的処置としてトロール漁の一時禁止を検討する必要がという。また、この報告書は、深海トロール漁は、狙った魚種以外の生物が網に入る「混獲」が非常に多い点も問題だとして、混獲を減らす対策の必要性を強調している。p.65-66

 海山の生態的な価値や深海トロール漁の問題など。つーか、トロール漁そのものが環境負荷が大きいよなあ。

 これは日本でも同様なのだが、欧州中の広い範囲に分布し、専門の漁師以外の人によってもかなりの量が捕られているウナギの漁獲データは極めて不十分であるのが現実だ。報告される漁獲量は実際の漁獲量のごく一部、場合によっては半分程度しかないとされている。
 プロローグで紹介したオランダのウナギ研究の専門家、ウィレム・デッカー博士によるとヨーロッパウナギの推定漁獲量は第二次大戦前はだいたい四万七〇〇〇トン‐五万トン前後で推移していたらしい。欧州で漁獲されるのは主に成長した黄ウナギなのでシラスウナギを大量に漁獲する日本に比べて重量は非常に大きくなっている。戦争中に二万五〇〇〇トン程度にまで落ち込んだ漁獲量は、一九六五年ごろまで増え続け戦前と同じレベルにまで戻ったが、その跡、急速に落ち込んでいるというのが博士の見方である。p.94

 二〇〇〇年代に入っても、ウナギの資源状況は各国で一向に改善の兆しが見られず、欧州諸国の中には漁業の中止に追い込まれる国も出てきた。既にスウェーデンではウナギは絶滅危惧種のリストに掲載され、商業的な漁業は禁止されてしまった。アイルランドでもほとんどの地域で漁業を禁止したし、かつてはかなりの量のシラスウナギを漁獲していたこともあるポルトガルも、二〇〇一年から〇二年にかけての漁期に、国内一カ所を除いてすべてのウナギ漁を禁止する処置を取った。禁止とまではいかなくてもウナギ漁の網の目を大きくしたり、漁期や漁場を限定したり、漁獲を許可制にしたりとさまざまな漁業規制対策が導入されるようになったが、効果のほどはまだ明確ではない。p.109

 ヨーロッパにおける資源状況。

 日本のウナギ研究の泰斗の一人で民間のウナギ増殖研究機関「いらご研究所」(愛知県)の所長を務めた岡英夫さんは、研究船上で一緒になったドイツ人の研究者に「日本人はニホンウナギを食い尽して、今度はヨーロッパウナギを食い尽す気か」となじられて返事ができなかった、との経験を紹介している。
 著者も、あるアメリカの環境保護団体のメンバーに「ウナギやマグロ、メロ(銀ムツ)など、日本人はどうして資源状態が悪くなった魚ばかりを好んで食べるのだ。ほかにも安くておいしい魚は日本の周りにたくさんいるだろう」と尋ねられて、返事に窮した経験がある。p.131

 ごもっともとしか言いようがない。つーか、ニホンウナギの前にヨーロッパウナギを食い尽してしまったわけだが…

 本章の最後でやや詳しく触れるが、日本のウナギ資源に関する研究は親ウナギの産卵生態などがよく分かっていないことも一因となって、あまり進んでいない。欧州やカナダのように政府や研究者が長期的に河川を遡上するウナギの数をモニタリングしているということもない。そもそも日本の河川を遡上するシラスウナギがどれくらいいるのかも分かっていないし、ウナギ漁がウナギ資源にどのような影響を与えたのかはもちろん、国内のウナギ資源の現状についてすらよく分かっていないのが実情だ。世界最大のウナギ消費国としてははなはだお寒い状況にある。だが、漁獲されるシラスウナギの量は全体の九〇%を超えるというのが大方の見方で、日本のウナギの減少の背景にシラスウナギの乱獲があることは、欧米のデータなどと比較しても否定できない。p.136-7

 研究の現状とシラスウナギの捕獲の現状。そりゃ、資源が枯渇するわ…

 立川さんがウナギの減少要因として挙げるのは河川環境の改変だけではない。河川を横切って建設されるダムなどの構造物によってウナギの遡上や降下が阻まれることはもちろん、ダムや発電所などのよって、自然の季節変動とは大きく異なったペースや時期の水量調整や水温の変動も、ウナギの成長や成熟に生理的な障害をもたらしている可能性が高いという。p.141

 ダムの悪影響。

 実は、利根川河口堰が流域の水生生物に与える影響を、水資源開発公団の委託を受けて民間の研究所がまとめた影響評価報告書が存在する。だが、なんとこれが一般に公表されたのは既に、着工から三年がたってからのことで、既に河口堰は半分近く完成していた。この中ではシラスウナギの多くは、両脇に造られた魚道を通って遡上するので問題はなく、産卵に下る降りウナギにも影響は出ないとされていた。この予測とはまったく違って、ウナギの生息状況に影響が出たことは既に紹介したが、当時の影響評価では、ヤマトシジミやアユの生息にも大きな影響は出ないとされていた。だが、アユやシジミにも予測と違って影響があったことが指摘されている。p.146

 この手の巨大プロジェクトの環境アセスって、本当に出鱈目だよな。外れたら事業主体や調査者にペナルティが付くようにするべきだと思う。ぬけぬけと嘘をつくからな。

 普通の魚の場合は、有害物質の濃度は内臓で高くなる傾向があるのだが、ウナギの場合、筋肉中に蓄積される有害物質の量が、他の魚に比べて多いことが報告されている。ウナギの筋肉中の脂肪の量が多いためらしい。筋肉中の有害物質の濃度が比較的高いということは、ウナギの可食部で有害物質の濃度が高くなることを示している。つまり、ウナギを食べる人間にとっても捨ててはおけない問題だということだ。事実、アメリカや欧州の一部などでは、可食部中の有害物質の濃度が比較的高いことを理由に「妊婦や子ども、体力が低下している人などリスクの高い人は、ウナギを食べない方がいい」「健康な人でも一年に四回程度に限った方がいい」など、ウナギを食べることによる健康被害を防ぐためのアドバイスをしている自治体や環境保護団体が存在している。かつては多くのウナギが捕れていたアメリカのニュージャージー州もその一つで、PCBやダイオキシンなどの毒性が高い有機塩素化合物の濃度が高いことを理由に、十五歳以下の子どもや妊婦、授乳中の母親などはウナギを食べないように勧告している。イギリス・バーミンガム大学のグループは一九九九年に、イギリス国内で捕れるウナギを食べることが、人間の体内にPCBが入り込む上での主要なルートの一つであることを報告している。p.166-7

 日本の河川はきれいだから大丈夫だよね(震え声)。
 つーか、冗談抜きに天然ウナギの汚染物質の蓄積は研究する必要があるんじゃなかろうか。つーか、水がきれいなところなら、養殖の方が安全なような気がする。中国は論外にしても。

 こうして見てきた時に気付くことがもう一つある。それは、世界で一番多くのウナギを食べていながら、有害化学物質がウナギに与える影響の研究や、発電所のタービンによるウナギの致死率、魚道を上るウナギの数やふさわしい魚道の構造の研究などが日本では驚くほど少ないという点である。日本で売られている水産物中のダイオキシンの濃度調査では、ウナギ中のダイオキシン濃度は、他の魚に比べて低いことが分かっているが、それ以外の有害物質に関する調査はまだまだ少ない。ニホンウナギの生息状況と日本周辺の有害化学物質汚染との関連を調べることや、それを食べる時の人間に対する影響の調査なども、今後の日本のウナギ研究にとって重要な課題の一つになるはずなのだが、欧米に比べてこの面での研究は遅れている。p.168

 日本のウナギ研究の状況。生態や環境汚染との関連ではずいぶん手薄な状況だということ。

 関係者によるとシラスウナギの密輸には、それを専門に扱う運び屋が関与しているという。事実のほどは未確認だが、ある事情通から「運び屋は、一度に持ち込める荷物の量が多いファーストクラスを使うことが多いので、密輸シーズンの航空会社のファーストクラス用ラウンジは、怪しげな人であふれている」とか、「荷物を預ける時のチェックが緩いので、飛行機へのチェックインができるホテルを使うことが多い。見る人が見ればすぐにそれと分かる人が、成田の特定のホテルにたくさんいる」との話を聞いたことがある。p.195

 マジッすかw

 EUの漁業規制やワシントン条約での取引規制の決定を受け、日本政府はウナギの人工養殖研究の強化を打ち出した。これは歓迎すべきことなのだが、驚いたことに霞ヶ関の官僚からは「EUの規制の影響が出始める二〇一〇年までに人工養殖の実用化を実現したい」との声が聞かれるようになってきた。政府がどれだけの予算の拡充を考えているのかは知らないが、慌ててなにがしかの投資をしただけで三年後に商業化できるような簡単な研究ならば、企業がとっくの昔に投資をして実現しているはずである。完全な人工養殖の実用化がそんなに簡単でないことは既に紹介したとおりである。今、必要なことは、当分の間、人間のウナギの消費は自然の再生産能力の中でやり繰りしていくしかないことを認識し、自然界でのウナギ資源の再生を助けつつ、養殖研究への投資を息長く続けてゆくことであるはずだ。日本の官僚には、孵化したウナギが卵を産めるまでに成長するには長い時間がかかる、という基本的な事実の認識すら欠けているのではないかと疑ってしまう。p.198-9

 まあ、性懲りもなく、水産庁は五年後に一万匹生産とぶち上げているわけだが。まあ、実用化から生産量の増加になっているあたり、現実を認識して、後退したのかね。それすらも、難しそうだが。

 ウナギの取材をしていて驚いたことは、中国から日本に輸出されてくるウナギのうち、どれだけがニホンウナギで、どれだけがヨーロッパウナギであるのかを、誰も知らないということだった。輸入業者にヨーロッパウナギニホンウナギを分けて申告する義務はなく、統計上は「ウナギ」としか出てこない。水産庁は、欧州が、ウナギをワシントン条約対象種にしようとの提案を行った直後に、急遽、業界などからのヒアリングを行ったのだが、詳しい状況は分からなかった。だが、ワシントン条約での規制対象となった以上、日本もヨーロッパウナギの輸入を国境でチェックする義務を負うことになる。これまでまったく分かっていなかったヨーロッパウナギの輸入の実態が明確になることは、ワシントン条約による規制の効果の一つである。p.214

 どんだけザルだよ…

 日本人とウナギの付き合いは大変長い歴史がある。だが、われわれは過去五〇年足らず間のどこかで、ウナギとの付き合い方を間違えてしまったのではないかという気がしてならない。一つは、立川さんの言う「ウナギの衣食住」を大切にしてやらなかったことだ。「経済成長」を優先し、ウナギ資源をダメにしてしまった河口堰や逆水門はその象徴である。もう一つは「ウナギの食べ方」の問題である。食べ方といっても蒲焼きにするか、うざくにするか、燻製にするか、といった問題ではない。かつてはそうちょくちょくは食べられなかったウナギが、最近ではいとも簡単に、驚くような低価格で大量に手に入るようになった。「ウナギが値上がりした」と言っても、ウナギの価格は以前はもっともっと高かった。ぜいたく品だったウナギが手頃な食材になったのはいいのだが、その反面、日本人はウナギを大切にして、ありがたがって食べるということをいつの間にか忘れてしまったような気がする。しかもこの間、ウナギの資源量は減少の一途をたどっているのだ。蓄養マグロの大量の輸入によって価格が急激に低下し、かつて庶民には手がとどかなかったクロマグロミナミマグロなどの高級トロが簡単に、どこでも食べられるようになったという刺身用マグロの現状とそっくりである。マグロ同様、世界的に乱獲で数が減っていることが問題化しているサメから取れる「フカヒレ」も同じだ。かつてのご馳走は、今やちょっとチープな普通の食べ物になっている。もう少し、日本人はウナギを大切に思って食べた方がいいのではないかと思う。一串あるいは一パック数百円の加工ウナギばかりを食べる人が増え、高くても焼きたての蒲焼きの味を知る人がどんどん少なくなっていくことは、日本のウナギ食にとって不幸なことではないだろうか。p.215-6

 このあたり、『エビと日本人』で海老フライをチープな食べ方と指摘したのと同じことなんだろうな。商業化・規格化・工業化によって、乱暴に漁獲消費されるようになる。


関連:いらご研究所-日本の川にヨーロッパウナギがいる?