「上天草発:基幹産業の海運業:船員の高齢化に危機感」『熊日新聞』12/12/24

 県内にある海運会社の半数以上の120社が集中する上天草市。市内の事業所数の約7%を占める基幹産業の一つだ。しかし、国内貨物量の減少で厳しい競争にさらされている上、船員の高齢化や船の老朽化が進み、危機感が強まっている。
 「うちの貨物船は6人の船員すべてが40歳代以上。50歳代が2人、60歳代も2人いる」と松島輸送船(同市松島町)の深水保廣社長。国内航路で貨物船(499トン)とタンカー(748トン)を運行するが、「若い船員を育てる余裕がない。あと10年もしたら、どうなるのか…」と心配顔だ。
 県海運組合(岩崎庵理事長)などによると、上天草市をはじめ県内海運会社の大半は、国内航路に就航。九州や関東、中京、東北など全国で飼料や鉄鋼、石油などさまざまな物資を運ぶ。
 同組合が9月に実施したアンケートでは、船員273人のうち60歳以上が27%、50‐59歳が37%を占めた。これに対し29歳以下はわずか6%。岩崎理事長は「県内は規模の小さい会社が多い。船員養成学校を出た若者の大半は大手に流れてしまい、私たちの雇い入れは難しい」と説明する。
 また、国の法改正は追い打ちを掛ける。以前は国の船員資格(海技士)を持たない若者が乗船業務の中で経験を積み、資格を取るケースが多かった。ところが2006年の改正で、船橋業務で常時、海技士の配置が義務付けられた。このため、業務の中で自前で海技士を養成していくのが難しくなった。
 船員の高齢化とともにもう一つの悩みが船の老朽化だ。同市大矢野町で船の売買に携わる平田汽船の平田憲二社長は「約20年前の好況時に多くの貨物船が建造された。一斉に更新時期を迎えている」と指摘する。
 しかし、県内の海運会社が持つ代表的な貨物船の499トン級で、1隻の建造費は5‐6億円。「船を更新できず廃業するケースも目立つ」と平田社長。実際、県海員組合の会員数は10年前の約140社から3割減った。同組合は「減少分はほとんどが廃業」という。
 組合の訴えを受け、市も船員の高齢化や後継者について調査を始めた。市商工観光課は「海運業は市の基幹産業の一つ。どんな施策が可能か検討したい」と話す。 (鹿本成人)

 メモ。上天草市に海運業者が集中していると。海難のニュースでも、熊本から瀬戸内海辺りに行っている人はけっこう多いようだしな。
 法令が厳格化されて、オン・ザ・ジョブトレーニングで船員の養成ができなくなったと。しかしまあ、海難事故なんかを考えると、船橋海技士が常駐というのは、必要な規制ではあるなあとも言えるしな。熊本県内の海運や造船の歴史というのも興味深いものがあるが。