祖父江智壮・赤嶺淳『高級化するエビ・簡便化するエビ:グローバル時代の冷凍食:グローバル社会を歩く7』

高級化するエビ・簡便化するエビ―グローバル時代の冷凍食 (グローバル社会を歩く 7)

高級化するエビ・簡便化するエビ―グローバル時代の冷凍食 (グローバル社会を歩く 7)

 インドネシアのエビ養殖業者から、日本ではどのようにエビが使われているかと問われたことから、日本でのエビの消費を追っかけた話。確かに、エビって良く食べるけど、加工食品の一部としてってのが多いな。あと、「高級化するエビ」ってあまり語られていないような。
 スーパーマーケットの調査から、圧倒的多数が加工食品、特に冷凍食品や惣菜として売られていること。確かにエビというと、エビフライ、シュウマイ、コロッケ、グラタンなど、冷凍食品と切っても切れない関係にあるように思う。このような現状には、コールドネットワークの普及による食生活の大きな変化が背景にあることを指摘する。20世紀初頭以降、水産物の流通過程に、コールドネットワークが普及していく。漁港、小売店、家庭と冷蔵庫・冷凍庫が普及していく。さらに、電子レンジが普及し、冷凍食品が家庭に入り込んでいく。エビ入りの冷凍食品が、すでに1960年代から開発されているのが興味深い。店頭での調査やメーカーへの問い合わせから、加工食品に使われるエビが、特に産地や品種を特定しないものであること。あるいは、クルマエビと冷凍バナメイの食べ比べも興味深い。エビフライにすると、素材のよしあしがわからなくなるのか。衣に吸収される油が味の大半を占めることになるようだ。
 初期に冷凍された生鮮食品を利用したのが軍隊や工場の女工といった大口需要者であったこと。冷凍庫の出現以前は、生鮮食品を安定して廉価で購入するのに苦労していたのが、冷凍庫の出現で安定した価格と量で購入できるようになったというのも興味深い話。確かに、コールドチェーンがなければ、生鮮食品入手の予測可能性は、非常に低くなるだろうな。そうなると、料理の腕が一段と重要になりそうな。
 われわれが、今、エビをどう食べているかを問い直した一作。


 以下、メモ:

 ただ、国司の思いはなかなか実現されず、一般家庭には、冷凍魚は浸透していかなかった。大河原は「家庭凍魚の方は失敗なのですよ。何故かといいますとね。これは対面販売でしょう。対面販売になると低温が保てなくて温度変化が多く駄目なんです。いまのようなディープフリーザー(引用者注:冷凍ショーケース)なんか無い時ですから」と冷凍魚の一般家庭への浸透の妨げとなった理由を指摘している。p.35

 開け閉めで、温度が保てなくて、小売の現場になかなか定着しなかったと。

 300円/240g(1gあたり1.25円)の「養殖解凍バナメイ・殻つき」と、4000円/250g(1gあたり16円)の「活きクルマエビ」を同時にエビフライにして食べ比べした。1gあたりの値段の差は約13倍もある。やっぱり活きクルマエビをつかったエビフライはおいしい、と言いたいところだが、わたしの舌はそれほど差を感じることがなかったというのが正直な感想である。わたしだけでなく、わたしの家族全員で食べ比べをしたが、3名みなが同意見であった。もちろん、活きクルマエビの質が低いわけでは決してない。刺身で食べると、プリプリッとした歯ごたえとエビの甘みがあり、冷凍エビとは雲泥の差を感じることができた。また、この2種類のエビを天ぷらにして味比べもしてみた。そうすると、「活きクルマエビ」の天ぷらは、エビのコクがしっかりと詰まっており、格段に美味かつ贅沢なものであった。
 天ぷらでは可能であったものの、不思議なことに、「エビフライ」にすると、両者のちがいをわたしの舌は見分けることができなかった。ファーストフード店のフライドポテトのおいしさではないが、エビフライを食べるとき、エビそのものの食味ではなく、衣に吸収された油の質が、わたしの舌のエビフライのおいしさを峻別する基準になってしまっているのではないだろうか。その点で「エビフライ」を「エビつきのコロモ揚げ」と『暮らしの手帖』が表現したのは言い得て妙である。そもそも、フライという調理方法には、良質な素材を必要としていなかったとも考えられる。それが、素材と油を吟味する天ぷらとのちがいなのかもしれない。p.73-4

 うーん、フライは素材のよしあしをごまかせる調理法ということか。冷凍食品に最適と。


 文献メモ:
藤林泰・宮内泰介編『カツオとかつお節の同時代史:ヒトは南へ、モノは北へ』コモンズ、2004
赤嶺淳編『クジラを食べていたころ:聞き書き高度成長期の食とくらし』グローバル社会を歩く研究会、2011
赤嶺淳編『バナナが高かったころ:聞き書き高度成長期の食とくらし2』グローバル社会を歩く研究会、2013
鶴見良行編『エビの向こうにアジアが見える』学陽書房、1992
宮内泰介『エビと食卓の現代史』同文館出版、1989
村瀬敬子『冷たいおいしさの誕生:日本冷蔵庫100年』論創社、2005