川添昭二『中世武士選書16:菊池武光』

菊池武光 (中世武士選書)

菊池武光 (中世武士選書)

 これ、昭和40年代に出た本の再刊ということでいいのかな。
 南北朝時代南朝の征西府全盛期を支えた菊池武光の生涯を、信頼できる史料を中心に、再構成している。というか、菊池氏は戦国時代に入るあたりで滅びているから、「信頼できる史料」そのものが少ないと。各地に発給された文書を中心にせざるを得なく、結局、太平記のフレームに頼ることになってしまう。しかし、菊池家の文書って、どういう風に蓄積されていたんだろうな。断絶しなくても、南北朝期に、何度も本拠の菊池を追われているわけで、鎌倉時代の文書なんかは残らなかったのだろうな。
 あとは、それぞれの武士団が己の領域的支配の確保を目的に、それに合致する勢力と連携する無秩序状態。勝っている時には、次々と味方が集まってくるが、負けがこむとあっという間に解体してしまう。その中で、戦力の中核となる一族の結集の重要性。特に、勢力の結集の要になる惣領が健在であることが重要。武重・武光の死亡直前や武士代の後継惣領をめぐる一族内対立が顕著だった時代には、勢力が振るわなくなる。
 あと、この時代の戦争が、どのように決着がついたかも、よくわからないな。少弐氏の勢力は、どのように解体していったのか。
 征西府を大宰府から追い落とした鎮西探題今川了俊が、どのようにして中国地方の武将の援助を取り付けたのか。逆に、一色範氏や斯波氏経といった前任者が、なぜ中国地域の諸勢力の援助を引き出せなかったのか。本人が九州で戦争している間、本拠地なんかはどのように経営されていたのか。いろいろとわからないことだらけだな。