肥後の里山ギャラリー「田代順七:こころの風景」展

 教員のかたわら、熊本県内のあちらこちらの風景を描いた、日展などに出展していた画家の回顧展。熊本県立美術館、熊本市現代美術館、玉名市立歴史博物館こころピアの三館からの出品で構成されている。こころピアは出身地だからまとまって寄贈されたのかな。
 精密に描き込むというよりは、ざっくりと形を描く作風だけど、今となっては失われてしまった風景が印象深い。天守がない時代の熊本城とか、五橋ができる前の天草とか、河川改修前の白川、坪井川、建物が建て替わる前の街並みなど。
 あとは、今では存在しなくなった産業が描かれている。八代大島の石灰焼きや玉名地域の海岸の貝焼き、船大工の工場の風景など。


 ヨーロッパのスケッチ旅行に行って、歴史的な街並みに魅せられ、逆に熊本の都市景観に興味を失ったとか、大江に自宅兼アトリエを構えた直後に626水害の被害を受けて過去作品を失ったとか、そういうエピソードも興味深い。


 撮影可だったので、気になった作品をビシバシと撮ってきた。


 「八代大島」。現在は干拓によって陸地に取り込まれているが、かつては石灰製造場として栄えた島。次の作品も含めて、海辺を描いた作品は好きだなあ。



 「貝焼場」。荒尾の貝焼き場を描いた作品。なんかすごくいい。



 「船大工」。まとまって水彩画のスケッチが出品されている。修行の一環として、水彩によるスケッチにいそしんだ時期があったらしい。水彩画は展示替えがある模様。この造船所、今はどうなっているんだろう。



 「熊本市内・坪井界隈」。1933年に壺井橋近辺を描いた作品。橋が小さいし、遠景の工場も興味深い。今、マックスバリューがあるあたりに、当時、絹織物工場があったように記憶しているが、それが現役だった時期。



 「新町界隈風景(新町所見)」。1979年に長崎次郎書店を描いた作品。後ろのビルといい、なんとなく今と変わらない感じの風景になっているな。



 「専売局焼跡」。1945年に、空襲で破壊された桜町近辺にあった専売局の建物を描いた作品。生々しいというか、時事的というか。



 「河畔風景」。子飼橋近辺の河川敷を、縦長の構図で描いた作品。この時代、建築資材要の砂利採取が行われていたという。今時、川で砂利採取はやらないから興味深い。



 「夏の天草」。この絵も好き。まだ天草五橋が存在しない頃の、高舞登山から松島方面を眺めた光景という。あんまり、フォルムをきっちりとは描いていないが、船の形が昔の渡し船っぽくていいなあ。



 「街角」。1961年に新市街入り口にあったキヨモト洋品店を中心とした風景。いまは、どこもビルになっているが、この時代にはこういう建物があったのね。



 「水辺の建物」。1963年に、坪井川沿いの「長塀通り」を描いた作品。一見して、水面と建物が近いことに驚く。川床を掘り下げる河川改修が行われて、ずいぶん川面と遠くなっているが、その代わりに浸水被害がない、と、全部建物は撤去されているっぽい。



 「街」。1961年に通町筋を描いた作品。先代の大劇会館とか、建物はごっそり変わっているっぽいけど、通町筋感はある。



 「球磨川」。球磨川の岩場を描いた作品。これも好き。