グレゴリウス山田『中世実在職業解説本:13世紀のハローワーク』

 オリジナルイラストとステータス紹介から解説に入る、RPGの設定資料的な体裁の歴史的職業紹介本。どこを目指しているんだという、割と奇書感のある本。「13歳のハローワーク」ならぬ「13世紀のハローワーク」。しかしながら、紹介される職業は古代から、新しいのは18-19世紀に至るまで。
 定番の職業から、こんな職業もあるんかというものまで。物珍しさでは、「NPC専用職業」として紹介されたのが勝る。
 あと、文献リストが有用だけど、詰め込んであるだけに、ちょっと見にくい。


 2番目の「傘貸し屋」からおもしろいなあ。日光を遮るものがない橋の上でだけ必要とされる日傘をレンタルする商売。そこそこ儲かったらしい。良い場所を確保できるかどうかがカギっぽいなあ。ヨーロッパ人、今でも雨傘嫌いだよね…


 ベナンダンティ、元ネタ本がすぐに思い浮かぶ上に、夢の中で悪しき魔術師と戦うという供述内容がこれまたロマンにあふれてるんだよな。ギンズブルクは『闇の歴史』しか読んでないけど。


 遍歴学生。なかなか凶暴というか、はぐれ知識人だからこんなものなのかね。


 盗賊騎士。「騎士」から取り上げるのがよりによってこれ。まあ、傭兵やるか、盗賊やるか。戦こそが存在意義だからなあ。


 鮮魚飛脚。鮮魚を運ぶって、洋の東西を問わず、金になるお仕事だったのね。だいたい、金持ちがいる所に鮮魚は流通していく。略奪されない武力も必要だった、リスクの高い仕事。その分儲かった。


 銛打ち。ここでは、バスク捕鯨をモデルにしている。捕鯨の一番槍。日本の古式捕鯨だと、後々網で弱らせて、銛を打ち込んだそうだけど、銛だけでクジラを弱らせて獲るのは、大変そうだな。尻尾で反撃も受けそうだし、命懸けの仕事は名誉もともなう、と。


 漕刑囚。個人的に、死刑じゃない刑罰と言えばガレー船送りイメージは強い。半分は死ぬのか。冬場は、船が陸に引き上げられて、囚人は手工芸品を売って金を稼いだりしていた、と。


 ヴァイキングから派生したヴァリャーギが興味深い。大都会の野蛮人というのは、親衛隊員になっても変わらないのね。というか、ビザンツ皇帝の直属武力として、下手に染まらない方がよかったんだろうな。


 傭兵の代表としてはランツクネヒツ。6ページにわたる大きな扱い。傭兵系では、一番ロマンあるよなあ。服装といい。しかし、17世紀以降は没落する一方。


 ベルセルク、英語でバーサーカー。一応、実在するのだね。なんか、薬物使っているっぽいけど、どうなんだろう。1066年スタンフォード・ブリッジで、しんがりを守って橋を1人で守った男が、それらしいけど、なんかすごいなあ。
 似たような存在としてNPC専用の項目では、アルモガバレスとか、クリークス・グルゲルンが紹介されている。


 墨家、なんかものすごいな。教団・軍事集団。防衛請負人。すごいカルトです…
 「墨攻」って小説が出てたな。


 抜歯屋、麻酔がない時代には、こういうのめちゃくちゃ力業で痛そうなのが。似たような感じで、半分素人な理髪外科医。最終的にまともな医者に負けちゃうのね。


 政治家系では、インカのキプカマヨクがおもしろい。縄の結び目でいろいろな情報を記録していた「キープ」を使って統治を行った人々。キープは、さすがに「解読」が難しそうだよなあ。あとは、イタリアの都市統治代行業者ポデスタ。都市共同体内の派閥争いが激しくなると、中立的な部外者に委託する。都市国家では、こういう外部の人への委託はちょくちょくあるな。
 初期投資が莫大だけど、儲けも莫大な徴税請負。失敗すると大損失のリスクもあるけど。近世フランスなんかが有名だけど、古代ローマも属州からの税の取り立てに利用していたのか。


 どぶさらいがリアルにダンジョンに挑む冒険者


 ヨーロッパの鉱業系職業がおもしろい。代表として、鉱山師が紹介されているが、NPC用では掃除用の砂を採取する「砂男」、パリの地下で石灰岩を掘りまくった「カリエ」、岩塩や塩水を採取する「塩鉱夫」、バルト海琥珀を採取する「琥珀漁師」などが紹介される。
 坑道が個人での請負なのは、日本も一緒だなあ。一方で、鉱夫の組合があって、発言権も強力だった。しかし、大規模化、資本主義化の過程で山の共同体は消えていく、と。


 情報が足りなくて、まとめて紹介となったNPC専用ジョブでは、スペインの羊飼い組合「メスタ」が印象深いな。ヨーロッパ全体の毛織物産業を支える巨大モノカルチャー、通り抜け御免。あとは、ピッチとタールを乾留する「樹脂焼き」。炭焼きと似たような感じでつくってたのか。燃やした後の灰を各家庭から回収する「灰男」。木灰は製造業では重要だから、どこでもあったのだろうな。カトリーヌ・ド・メディシスが作った女性スパイ団「遊撃騎兵団」もおもしろい。


 いろいろな文献が、巻末の参考文献に紹介されているけど、おすすめとして、9冊が紹介されている。最後のは原書が紹介されているけど、たぶんこれが日本語訳。
 2冊読んでるなあ。メイヒューは別の本を読んでいる。


F.クライン=ルブール『パリ職業づくし:中世から近代までの庶民生活誌』論創社、1998

阿部謹也『中世を旅する人びと』筑摩書房、2008

ティーブン・ビースティ、リチャード・プラット『輪切り図鑑 ヨーロッパの城』岩波書店、1994

メルシエ『十八世紀パリ生活誌:タブロー・ド・パリ』岩波文庫、1989

ヘンリー・メイヒュー『ヴィクトリア時代ロンドン路地裏の生活誌 上下』原書房、2011

ミシェル・パストゥロー『縞模様の歴史:悪魔の布』白水Uブックス、2004

ヴィッキー・レオン『図説古代仕事大全』原書房、2009

トニー・ロビンソン『図説「最悪」の仕事の歴史』原書房、2007

ミヒャエラ・フィーザー『西洋珍職業づくし』悠書館、2014

ja.wikipedia.org
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