論文いろいろ感想

 自転車を中心にここしばらく集めた文献についてのメモというか、感想。


小口悦子「堺の自転車工業(地場産業の町)」『地理』20-3、1975
竹内淳彦「日本における自転車工業の立地」『地理学評論』 33(8),1960-07
奥村栄「東海地域自転車産業の実態と問題点--自転車生産構造の特質」『地域分析』 11(3), 81-126, 1973-08
 以上の三本は、1960-70年代の自転車産業の現状報告。なんというか、本当に時代が変わったなあという感じ。現在の日本では、ほとんどが中国台湾で生産されている状況。家内工業でやっていた部品メーカーや問屋はその後どうなったのか。いくつか名前が出ている有力企業をググってみたけど、潰れていたり、元の部品から発展して車や産業機械の部品生産に移行している企業が多い。
 あと、立地論はいいけど、歴史的経緯や関連分野を考慮しない方法では、あまり説得力がないな。


荒井政治「サイクリング・ブ-ムと自転車工業の興隆:19世紀末イギリス」『関西大学経済論集』 37(5), p553-582, 1988-01 
西圭介「第一次世界大戦以前のドイツにおける自転車の生産と普及」『経済学論叢(同志社)』 61(3), 597-635, 2010-01
 イギリスとドイツの初期の自転車生産の発達を追った論文。どちらも、生産、流通、普及など、いくつものトピックを追っているので、個々のトピックに関しては若干食い足りない気も。後者は、アドラー社の社史や当時の博士論文を材料に、自転車生産の発展、1900年代の販売危機、大規模化・多角化などの動向が整理されていて興味深い。今回の中では、いちばんおもしろかった。


渡邉祐介「自転車店主・五代音吉と奉公人・松下幸之助--明治末期の自転車小売業の実態と雇用関係」『論叢松下幸之助』 (13), 41-70, 2009-10
 実際には、追悼本と松下幸之助の回想を引きうつしただけのような気も…
 人力旋盤の話程度しか得るものは無し。しかし、PHPは「松下幸之助」を冠した雑誌をいくつも出しているな。しかも、どれも微妙に香ばしい。


関 権「戦前期における自転車工業の発展と技術吸収 」『社會經濟史學』 62(5), 571-601, 1997-01-25
本台 進「軽機械工業の発展と部品の規格標準化--石油発動機とミシンの事例」『大東文化大学紀要, 社会・自然科学』23号 1985
 こういう「経済モデル」優先型の論文は、ほとほとつまらんな。「雁行型発展」とか、中身がほとんどないモデルだし。当該産業の歴史に関する情報源としても、底が浅くて使えない。


幸田 光温「記銘農具の信憑性について」『民具マンスリー』38/1 2005
 歴史民俗系の博物館では生産者や特許が書かれた農具、鋤や稲扱あたりの少し複雑なもの、をよく見かける。これら記載内容の信憑性がすこぶる怪しいという話。別の産地の製品を偽って売ることは常態だったらしい。特許や実用新案と書いてあっても、実際にその番号を調べると全然関係なかったりするとか。
 ありがちな誇大広告ではあるが。情報源として使う場合には、そういうことを念頭に入れて当たらなければならないという話。