荒木正亘『町屋棟梁:大工の決まりごとを伝えたいんや』

町家棟梁: 大工の決まりごとを伝えたいんや

町家棟梁: 大工の決まりごとを伝えたいんや

 伝統的なスタイルの町屋の建築を引き継ぐ、ベテラン大工からの聞き書き
 かつては、施主と大工は、継続的な取引関係を持ち、頻繁に修理が行われていた。また、施主側も、半端な大工よりも知識を持っていた。第5章では、年中行事のたびに、大工側がさまざまなサービスを行っているたことが紹介されるが、ある種、大工側の従属というか、支配・被支配関係の確認的な雰囲気があるな。労賃が安かった時代の名残なのかね。
 第2章の細かい「決まりごと」がさっぱり分からなかった。細部に関わるノウハウが語られるが、そもそも用語から知らないという。一方で、建物の完成度は、こういうところの気遣いによって、左右されるんだろうな。
 第6章は、構造や耐震性の話。町屋は、各部を固定しないことによって、地震のゆれに対し柔軟に対処する。重要な部分の補修をまめに行っていれば、大丈夫と、荒木氏は考えているようだ。一方で、現在の京都の町並みは、幕末に起こった地震以降、大規模な地震を経験しないまま来ている。その点で、実践の欠如は不安材料。実際、京都の大工さんは、ずいぶん危機意識が欠けている感じが。160ページの会話とか。
 一方で、町屋をEディフェンスに持ち込んで、揺らす実験とかもしているのだな。それをみると、施工者が気をつかって、まめにメンテナンスされた町屋は、それなりに耐震性がありそうにも見えるが。1960年代より前と1981年の新耐震基準の間の時代の建物が危険というのも、興味深い。基礎を固定した建物になっているが、その建物の耐震性能に不安があると。地盤が重要とか、一部分を固めると、かえって耐震性が損なわれるとかの話も興味深い。

 それとやはり大学ではあんまり木造、木の話はされないですね。歴史の話は、私も専門学校で聞いたけど、木の話は「おまえらのほうがよう知っとる」とか言われて、誰も教えてくれへんかったから。p.155

 ダメじゃん。住宅の大半は木造建築なのに、そういう体たらくでいいのかね。


 巻末の宣伝から、メモ:
安藤邦廣『民家造:環境と共生する技術と知恵』学芸出版社
坊垣和明『民家のしくみ』
村田健一『伝統木造建築を読み解く』