熊本県立美術館特別展「江戸の動物絵大集合!猿描き狙仙三兄弟~鶏の若冲、カエルの奉時も」

 熊本藩の仕事もした森派の始まり、猿の絵で著名だった森狙仙とその兄弟たちとその後継者、さらに、それぞれ一芸として動物の絵で名をなした鶏の若冲、虎の岸駒、蛙の奉時といった人々の作品を集めた展覧会。近世関西の画家たちは、トレードマーク的に特定の動物に注力した。それが、さらに市場に受けた。
 思ったよりもよかった。特に、奉時の蛙絵。思わず絵はがきを買ってしまった。ついでに図録も購入。最近は、場所を取る図録はなるべく買わないようにしているのだが…


 全体の構成は、森派の三兄弟の源流、そして長兄陽信、次兄周峰、本人の狙仙、次世代以降。その後、動物をトレードマークとした上方絵師たちの紹介。師匠筋の櫛橋正盈、吉村周山、勝部如春斎といった狩野派の絵師や当時流行っていた円山応挙、月岡雪鼎の絵画が紹介される。その後、長兄の陽信の絵画が3点、次兄周峰、末弟狙仙の絵画が展示。3人、相互に協力しつつ画業を続けた感じなのかな。「猿描き」と呼ばれた狙仙の兄ということで、猿の絵を求められたのかけっこう残っている。個人的には、周峰の絵好きだなあ。撮影可だった掛け袱紗の絵が特に。
 そして、最後が狙仙。ぼかした墨の上に、細かく毛を描いていくことでモフモフ感を表現して評判になった。晩年には、毛を表現する筆目が太く、強い線に変るというのも印象的。個人的には晩年の画風が好き。最初は祖仙だったのが、文人に勧められて猿の意味がある狙の字に変えたというのがおもしろい。


 陽信の絵画。高砂図と群鶴図屏風。後者は端っこがピンボケしているけど、ブログのサイズなら目立たないかな。






 次兄周峰の絵画は、掛け袱紗の絵だけ撮影可。これ、割と好き。こう、ゴツゴツ感があるのがいい。写真は駄目だったけど、「観瀑図」、「月下鹿図」が好きかなあ。モフモフ感が強い絵が、あんまり印象に残らない、ざっくりと強く描いた絵が好みなんだな、俺。




 狙仙の絵は、猿図が二点撮影可。個人的には44番の「猿猴図」、45番の「老榧双猿図」、52番の「猪図」あたりが好き。




 第4章は、狙仙や周峰の子供世代など、森派の展開。熊本藩からの発注も受けたらしい、森徹山や弟子達の絵画。他の家の弟子になったり、絵師コミュニティで、相互に関係があったようだ。個別の作品よりも、大坂の戯作者武内確斎の愛犬追悼画帳「仏林狗追憶詩画帖」が印象的。あとは、虫を細かく描いた森春渓の「肘下選蠕」が印象的かな。森祖雪の「双猿図」は、早い段階の狙仙の絵を受け継いでいる感じか。






 ラストの第5章は、特定の動物など一芸をトレードマークとした上方絵師たち。鷹を描いた土岐家や曽我二直菴、鶉の土佐家、伊藤若冲の鶏、虎の岸駒、蛙の松本奉時、戯画の耳取斎、森一鳳の藻刈舟図は「儲かる(藻刈る)一方(一鳳)」のダジャレがうけたとか。生存戦略がおもしろい。


 やっぱり、松本奉時の蛙絵がいいなあ。なんだろうねえ、この味は。思わず絵はがきを買ってしまったが。




 土佐家のウズラ。



 土岐家の鷹。



 若冲の鶏。出品されている絵では、86番の「柳下馬図」や87番の「芭蕉葉図」が好み。特に前者の、単純な線でガッガッと描きつつ、迫力があるのが。



 耳取斎の「地獄図巻」は、それぞれの職業に絡んで責められている図柄がおもしろい。絞られる「豆腐屋の地獄」、自分が猿回しの猿になる「猿回しの地獄」、こねられ擦られての「そば打の地獄」、罪人が数珠になって回される「念仏者の地獄」、急須に火炎攻撃を受ける「仲居の地獄」などなど。