港で働くタグボートがどんな仕事をしているか紹介する本。仕事をしている人に焦点が向いているのが珍しいかな。わりと、業界のリクルート本な感じが。港で仕事をするから、家から通えるのが強みということか。
3章のタグボートのハードウェア紹介が印象深い。方位磁針と言えば磁石が当然なんだけど、GPSから方位を示すサテライトコンパスというのが出てきて、旧来からのコンパスはマグネットコンパスとなっているのが興味深い。
最近のタグボートはZドライブプロペラというのがメインになってるそうだが、動力を二度垂直に曲げて、かつ360度方向を変えられるの、強度的に大変そうだなあ。あと、操縦も変数が増えそう。レバーがたくさんあるし。
居住区画や補機類の紹介が多めなのもうれしい。
曳航用のロープの話も興味深い。90年代には繊維製ロープが10センチを超えるようになって、扱いに苦労した。その後、合成繊維製の高強度軽量のロープが供給されるようになって、作業性が向上。超高分子量ポリエチレン繊維製のものがメインになっている。ただ、繊維の伸びが少ないため、慣れないと衝撃で金物を破損させる危険がある。補修の手間があるから、あまり複雑な撚りのロープは困るとか。
タグボートの実際の仕事についても、かなりページが割かれている。近場の港内だと、午前と午後の2回程度、入港支援を行う。巨大な質量を持つ船は止めるにも時間がかかるため、あらかじめ動きそうな周りの船の動きを確認しつつ、出入港作業を行う。これに、日常の船の整備作業が加わる、と。
東日本大震災の時の活動が語られるけど、ギリギリで船を出そうとしていたり、けっこう危ない橋を渡ってるなあ。最近有名になってきたVLCC「Front Hakata」の漂流事故も紹介されている。
水先案内人の回想の、天気の変化を読み間違えてラインが切れて漂流。しかし、切れたラインをつなぎ直して、かろうじて港への衝突を避けたエピソードが印象深い。
8章のタグボートの未来は、タグボートの歴史。フォイト・シュナイダー・プロペラって、1920年代から実用されていたのか。しかし、船舶の大型化や活動範囲の拡大の中で、直線性、速力、馬力に劣るので、可変ピッチプロペラトコルトノズル、さらに最近ではZペラへと変わってきている。
そして、今後は最大出力時だけ電動モーターでアシストするハイブリッド船やLNG燃料船が登場している。LNGタンクが甲板上にポン付けなのが、発展途上という感じだなあ。
今後、自動船が普及するなら、入港などの複雑な動きをする場面でタグボートの活動の幅は広がりそうだなあ。