佐山二郎『日本陸軍の火砲:高射砲:新装版』

 日本陸軍の火砲を紹介するシリーズ本の1冊目。基礎知識、概説、高射砲の紹介の構成。


 陸軍火砲史を見ると、実のところ、幕末から日清戦争あたりまでの雑多な砲がすごくいいなあ。最近、駐退機が付く前の火砲がすごく気になる。イタリア式青銅砲による国産化日露戦争に備えた三十一年式速射野・山砲、日露戦争の戦訓を反映した四十五年式の各種砲群、第一次世界大戦の戦訓を反映した九〇式以降の各種火砲、日中戦争や太平洋戦争の戦利砲の技術を参照した砲や機械化部隊用の砲などと段階的に整備されていく。


 第一次世界大戦あたりから整備されるようになった、比較的歴史の浅いカテゴリーである高射砲は18種類が紹介される。
 最初の最初は観測気球撃墜用の「高角三十七粍砲」。第一次世界大戦でドイツの植民地であった青島攻略作戦で、初対空戦闘を経験した高射角野砲(これは、対空戦闘を必ずしも意識していなかったようだが)。シベリア出兵にあたって、野砲を木製の台座に乗せて高角射撃・全周旋回を可能にした「臨時高射砲」。野砲の砲身を対空砲架に乗せた「十一年式七糎半陣地高射砲」。1920年あたりまで、応急処置が続いたのね。


 十一年式七糎半野戦高射砲で、やっと専用に考えられた対空砲が物になる。しかし、これでも5000メートルほどの高度までしか対応できず、最初から航空機の進歩に遅れていた。結局、ずっとこの調子で置いてけぼりにされてきた感じがあるなあ。


 第二次世界大戦の主力となったのは八八式七糎野戦高射砲。全部で2000門強生産されているから、日本にしては頑張ったと言えるけど、アメリカの航空攻撃に対して足りていたかというと。あと、75ミリ級対空砲というのが、そもそも威力不足だった感。有効射高は4000メートル程度、大型機には直撃しないとほとんど効果がなかったという話もあるとか。


 日中戦争で鹵獲したドイツ製88ミリ対空砲を参考に開発されたのが九九式八糎高射砲。シュナイダー式に替えて、重量はかさむが構造が単純なクルップ式を取り入れた。放列砲車重量が7トンだから、ずいぶん重くなっているけど、固定陣地で運用と考えると、別にかまわないのか。500門整備されているから、八八式に次ぐ主力といった感じかな。


 三式十二糎高射砲は、要地防空用の重対空砲。昭和19年あたりから生産に入って、140門ほどが整備されたから、かろうじて間に合ったうちか。海軍の128ミリ高角砲を参考にしたもの。20トンだから、本当に機動性はお察しだろうなあ。最大射高が14000メートルだから、B-29が高高度を飛んでも、脅威は与えられるかな。


 最後を飾るのが、久我山に配置された五式十五糎高射砲。諸外国は120ミリ級までは作っているけど、150ミリ級まで作った日本は相当に高高度射撃に苦労していたのだな。ドイツは、B-29が出てこなかった幸運と言うべきか。
 全部で47トンとか、高初速砲のヤバさと言うべきか。単射で44発消費という、労力のわりに有効だったのだろうか感とか、実際のところ、戦果はどの程度だろうかとか。離脱中のB-29編隊に射撃して、米軍が避けるようになったという伝説があるけど。