佐藤賢一『王の綽名』

 先に岡地稔『あだ名で読む中世史』を読んでしまうと、ちょっと物足りない感が。同時期に借りたけど、こっちを優先するべきだったか。新聞に連載された記事をまとめたものだそうで、「歴史エッセイ」といった感じが強い。
 一人4ページだから、さらっと書かれていて、『あだ名で読む中世史』の断片的な記述の迷宮に迷い込んで、なんだそれ訳分からねーみたいなおもしろさはないな。
 東欧やロシア、北欧からも採られているのが興味深い。


 東フランク王ハインリッヒ1世の「捕鳥王」というのが、頭に残るな。鳥狩りのハインリッヒとでもいうべきか。


 ハンガリー王カールマーン、「文人王」と言われる、聖職者として期待の星だった人物だけど、なかなかガチな親族同士の権力争いしているなあ。


 アラゴン王アリフォンソ1世戦士王とイングランドリチャード1世獅子心王、どっちも戦バカといった感じだな。前者は子供作らず家臣に苦労させて、後者はほとんどイングランドにいなかったという。リチャード、物語では正義の味方的な立ち位置だけど、正直、統治を放棄して戦費を払えばいいや的な思考だよなあ。


 フランス王フィリップ2世、ここでは「尊厳王」と訳されているけど、彼にかんしては訳さず、フィリップ・オーギュストとしたほうがよさそう。要はアウグストゥスの名前を借りることで、ローマ皇帝と対等と自称したわけだし。日本人的にはフィリップ・アウグストゥスと二言語混ぜた方が文脈が分かりやすいかも。


 女性の王侯も何人か紹介されているけど、悪意のあるあだ名が多い。スキャンダルも、わざと貶めるために付けられた感じが多くてなあ。フランドル女伯マルグリット2世の「黒女伯」、イングランド王妃イザベラの「フランスの雌狼」、チロル女伯マルガレーテの「大口女伯」など。


 ポルトガル王ペドロ1世、残酷王は、なろうの異世界恋愛カテゴリーにあるような「真実の愛」系のお話だな。というか、「真実の愛」で暴走した側が勝っちゃった例。


 エドワード黒太子、名前がかっこよすぎるなあ。


 ブルボン朝は個性的な王様が多い。「助平ジジイ」ことフランス王アンリ4世、「太陽王ルイ14世、「最愛王」ルイ15世。50人以上の愛人を抱えたアンリ4世庶子はどうしたんだろうねえ。劇場型露出狂のルイ14世、幼年期に即位して、長生きしまくって、次代はひ孫というのが。で、そのひ孫のルイ15世、こちらもアンリ4世の子孫らしく愛に生きた、と。


 「解放皇帝」ブラジル皇帝ペドロ1世も興味深い。ナポレオン戦争でブラジルに脱出したポルトガル王家、その後、国王は戻るが息子が残って、独立運動に同調。ブラジル皇帝として即位。その後、父王の死後、娘をポルトガル王、息子をブラジル皇帝にして、弟との内戦で勝利とか、なかなか波瀾万丈。


 最後は「市民王」こと、フランス王ルイ・フィリップ。ナポレオン没落後、フランス王家が復活。その中で、民主制に理解を示すルイ・フィリップが選ばれる。しかし、納税額による制限選挙を支持する彼も、次代に追い越されて普通選挙を要求する民衆に追い出されてしまう…