熊本県立美術館「超写実 ホキ美術館名品展」

 会期末と台風の前に駆け込みで観覧。胃腸炎にならなければ、もっと早く行くつもりだったんだよなあ。
 写真撮影一切禁止という、今時珍しいストロングスタイル。よって、写真0。


 25人の日本人写実絵画家の作品が出展されている。一番古いのが1985年で、ほとんどが21世紀に入ってからの作品。
 人物画の人の細部の描写、服のしわや手の静脈などが徹底して書き込まれているし、風景画なら少なくとも距離を取れば写真に見紛うほどのディテールが描き込まれていて、その手間たるや。いまどきの「アーティスト」はもっと空中戦指向だから、ここまではやらないだろうなという。絵として、安心して保守的な態度で鑑賞できるのが良い。
 あと、作品がどれも大判で迫力があるのもいい。


 あとは、ぱっと見て、これは写真っぽいという作品と、細密に描かれた絵画だなと思う作品があるのもおもしろい。写真を模すのが、必ずしも写実ならずというか。
 いかにも写真っぽいと思う作品、写真のプリントに似た色で描いているのか、表面の艶が写真っぽさを作るのか、ライティングの演出を模すのが大事なのか。額にガラスが嵌まった作品は写真ぽいのが目立つし、表面の艶は重要そうだけど。
 だいたいの作品は、写真ぽくても、近づけば絵だけど、たまに近づいてもこれ写真じゃねという作品もある。島村信之「藤寝椅子」「日差し」、三重野慶「言葉にする前のそのまま」、廣戸絵美「「my blue moon」「冬萌」あたり。ルーペで細部を見ればともかく、ぱっと見、完全に写真。
 あと、石黒賢一郎「VISTA DE NAJERA」、もう完全にセピア色になったモノクロプリントにしか見えないのだが…


 個人的に好きなのは、島村信之「幻想ロブスター」かな。ロブスターをズームレンスで撮ったような、迫力ある姿。ツヤ表現の制御が現実を超えた迫力を与えている。
 あとは、風景画で森本草介「田園」と青木敏郎「アルザスの村眺望」が印象的。前者は、バルビゾン派的な古典的な色とシャープな画風が、後者は集落の建物の陰影表現が写真を超えた存在感をもたらす。
 以上の三点は絵はがきを購入。
 あと、絵はがきが売り切れていたけど、三重野慶「言葉にする前のそのまま」も、心に残る。
 ガラス器を描いた作品では、五味文彦「ガラスポットのある静物」がガラス器の透明感の表現で一番かな。


 他に印象に残ってメモしているの列挙。
 青木敏郎の静物画は、光の演出で、中心的なもの(デルフトの白い焼き物)を現実より強調している感じ。フィルターを強めた写真的な。
 羽田裕作品は、風景画らしい風景画という感じ。点描という程ではないけど、色の点をうまく使って西洋都市を表現している。
 野田弘志摩周湖・夏天」は、ぱっと見すごく写真感が強い作品。
 島村信之作品、人物画の「藤寝椅子」「日差し」、カブトムシの標本を描いた「夢の箱」どっちも、ぱっと見写真という雰囲気。特に標本のカブトムシがすごい。
 塩谷亮作品で、浴衣を着た女性をモチーフとした作品が二点出品されていたけど、女性をメインで描いた作品は写真感が強くて、岩場の中に女性がいる作品はそれほど写真感がない対比が興味深い。光の演出の違いが大きいのかな。


 ホキ美術館刊行の図録、買っとけばよかったかな。