今年印象に残った本2010(一般部門)

 2010年ももう終わり。今年はなんか年末感がないな。大概この時期には体調が悪いが、今年はかなりのペースで本を読み続けているせいか。改めて、日記に残したメモを見なおすと、今年の読了は245冊。このうち80冊前後が、ラノベや漫画など。今年は読んだなあ。
 年の前半に前々から読もうと思っていた機械工業のハードカバーの本が入っているので、そのあたりが多い。
 では、ランキングへ。

  • 10位 火の見櫓からまちづくりを考える会編『火の見櫓:地域を見つめる安全遺産』

火の見櫓―地域を見つめる安全遺産

火の見櫓―地域を見つめる安全遺産

 静岡県の火の見櫓の悉皆調査を中心に、様々な側面から火の見櫓を描く入門編な書物。写真が多数収録されていて、火の見櫓の魅力がたっぷり堪能できる。大まかな枠組みのなかの多様性というか、村の心意気というか。

虫食む人々の暮らし (NHKブックス)

虫食む人々の暮らし (NHKブックス)

 世界各地の昆虫食を追いかけた本。いろいろな形で虫が食べられてる。スナック感覚で流通していたり。虫を食べたことはないが、イナゴの佃煮とかは大丈夫そう。ただ、芋虫形はちょっとつらいかも。

  • 8位 飯島渉『感染症の中国史:公衆衛生と東アジア』

感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)

感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)

 公衆衛生がもつ政治性を解く本。公衆衛生が身体的規律化や植民地の支配に利用される。「近代」というものの両面性を明らかにする。

  • 7位 本郷恵子『中世人の経済感覚:「お買い物」からさぐる』

中世人の経済感覚 (NHKブックス)

中世人の経済感覚 (NHKブックス)

 中世の人々が富を何に投じたかから、当時の価値観を析出する書物。社会的に認知を得るために、然るべき官位を購入し、然るべき装束を整えることの重要性。あるいは、在地の有力者の寄進行為の大きさ等が印象的。

  • 6位 L・T・C・ロルト『工作機械の歴史:職人の技からオートメーションへ』

工作機械の歴史―職人の技からオートメーションへ

工作機械の歴史―職人の技からオートメーションへ

 工作機械の有名書物。見事に跳ね返された感が強いが、それも思い出。

  • 5位 デーヴィッド・A・ハウンシェル『アメリカン・システムから大量生産へ』

アメリカン・システムから大量生産へ 1800‐1932

アメリカン・システムから大量生産へ 1800‐1932

 これもその道では有名な書物。フォードの大量生産に至る、半世紀の量産・標準化への流れを、膨大な史料で再構成している。読むのが大変だった。凄い仕事。

  • 4位 鈴木淳『明治の機械工業:その生成と展開』

 明治の機械工業がどのように発展したのかを追った書物。外国製機械を大規模に導入した移植産業と在来技術の改良から発展した地方の中小工業の二重構造を明らかにする。在来の技術に接ぎ木して発展した工業の重要性。適正技術というべきか。それが興味深い。

「結婚式教会」の誕生

「結婚式教会」の誕生

 キッチュな結婚式のための教会がどのようにして出現したのか。結婚式や宗教史、建築史が重なり合う境界線の面白さ。日本人にとって「結婚式」というのの伝統が弱かったことが、こういう宗教的にはわけわからん建築を生んだんだろうな。

  • 2位 加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

 近代に日本がどのような見通しや情報を持って開戦を決意したのか、様々な側面から解説する。元が高校生への講義なので、平易で分かりやすい。最初の方は、史学概論としても良い。

  • 1位 マイク・デイヴィス『スラムの惑星:都市貧困のグローバル化

スラムの惑星―都市貧困のグローバル化―

スラムの惑星―都市貧困のグローバル化―

 いや、これはもう圧巻としか言いようがない。世界の各地で凄まじい勢いで進むスラム化。「統治」の世界的な崩壊・廃棄によるディストピアの具現化。こういっては何だが、SFよりSFな世界。サイバーパンクよりもサンバーパンクな世界。

未来の都市は、先行世代の都市論者が予想したようなガラスと鉄からではなく、大部分、未加工のレンガ、藁(わら)、再利用のプラスチック、セメントの塊、廃材で建設されることになる。二一世紀の都市世界のほとんどが、天空をめざしてそびえ立つ光り輝く都市ではなく、汚物と排(はい)泄(せつ)物と腐敗によって囲まれた汚辱のなかでスクワットするのだ。p.29

 この一文に尽きる。


 以下、次点。
佐川美加『パリが沈んだ日:セーヌ川の洪水史』asin:4560080410
杉本仁『選挙の民俗誌:日本的政治風土の基層』asin:4787763199
マルク・レビンソン『コンテナ物語:世界を変えたのは「箱」の発明だった』asin:4822245640
フィリップ・キュリー、イヴ・ミズレー『魚のいない海』asin:4757160410
柳原良平 船の模型の作り方』
清水克行『日本神判史:盟神探湯・湯起請・鉄火起請』asin:4121020588
村井吉敬『エビと日本人』asin:4004300207
山之内克子『ハプスブルクの文化革命』asin:4062583402
喜安朗『パリ:都市統治の近代』asin:4004312132
光成準治関ヶ原前夜:西軍大名たちの戦い』asin:4140911387
齊藤俊彦『轍の文化史:人力車から自動車への道』asin:4478240647