チャールズ・モア、カッサンドラ・フィリップス『プラスチックスープの海:北太平洋巨大ごみベルトは警告する』

プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告する

プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告する

 うーん、何というか竜頭蛇尾感があるような。前半はともかく、後半読み終わるまでにものすごく停滞した。海犬の同類かと思った時点で、なんか萎えるものがあるな。
 人類によって大量に「消費」されたプラスチックが海に流入し、北太平洋循環の中に高濃度に集まってゴミベルトを形成していること。プラスチックは劣化し分解していくが、分子構造は微粒子レベルになっても維持され長期的に環境中に残留することになる。これらのプラスチック片は、摂食行動によって生態系に入り込む。例えばポリ袋がくらげと間違われて海亀などに食べられたり、分解された小片がプランクトンと一緒にハダカイワシやクジラ、動物プランクトンなどに食べられる、アホウドリイカなどと間違えて食べるなどの事例が紹介されている。また、投棄ないし流失した魚網に絡まって死亡するなど、大型の海洋生物の脅威になっている状況。
 これらのプラスチック類が、添加された化学物質や周囲から吸収された化学物質を輸送し、生体内に蓄積する手助けをしているのではないかと指摘される。このあたりの内分泌撹乱系の話については、知識がないので保留。ただ、人類が作ったプラスチックの一部が流失しただけで、海に大量のプラスチックが流れ込むこと。それらから浸出する化学物質は長期間環境に存在し、その蓄積量が増大していくこと。環境中でどういう作用をするのか、相互作用までを含めては調べようがないこと。さらに化学物質に限れば、分解されて消失する合板や紙にも添加され、塗料や接着剤として使われていることを考えると、海洋に流れ出たゴミが含む化学物質がどのような作用をするか、気分がよくないのは確か。東日本大震災津波や列島各地の水害で、大量の瓦礫が環境中に供給されてしまったことを考えると特に。
 内分泌撹乱物質のリスクが最初に指摘されたほど大きくないにしても、環境中に化学物質を放出しないようにする工夫は必要だよな。プラスチックの利用の削減も。レジ袋なんかは、やはり強力に削減する必要があるわな。ペットボトルの飲料を買うのを避けるとか。あと、本書でも提案されているプラスチックの組成を規格化して、リサイクルしやすくする取り組みも必要だろうな。
 このあたりの漂流プラスチックの問題は、アラン・ワイズマン『人類が消えた世界』asin:4152089180ではじめて知ったが、本書の著者であるチャールズ・モアからのソースが主体のようだ。


 以下、メモ:

 このときおそらく私は、プラスチックは腐敗が遅いことは知っていたが、現実的な時間枠の中では生分解〔生物作用または生物由来物質による分解〕しないということには気づいていなかっただろう。熱や化学反応で結合させた炭化水素である人工の重合体〔ポリマー。単量体(モノマー)が重合してできた化合物〕は非常に強く、分解されにくい化学物質であることを知るのはまだあとだ。プラスチック製品は割れて破片になり、やがてナノ粒子となって幾世紀も環境を汚染しつづける。生物にとって、これらの永久不滅の粒子と出会うことは何を意味するのか。自然界に放出されたプラスチックは、沿岸の海洋生物が誤食する危険、からまれる危険を与えていた。数年まえロングビーチの防波堤近くで、哀れな様子でもがいているカッショクペリカンを救ったことがある。釣り針が刺さり、それについたモノフィラメントの釣り糸にからまってしまっていたのだ。p.27

 まあ、ナノレベルまで分解されたら、たんなる砂って感じもしなくもないが。

 やがてどこかの時点で、プラスチックは目新しく、かっこよいものではなくなり、安っぽいまがいものに見えはじめた。p.61

 このあたり、神坂一の『OPハンター』asin:4044146071を思い起こさせるな。出始めたときにはプラスチックは最先端の新素材。いつの間にか、安物に見方が変わったと。

 プラスチックと使い捨てが同義語になったのはいつだろう。一時期プラスチックは、長期使用を意図した消費財に特別に使われていた。そこに登場したのがビックで、ボールペンを初めて商業的に生産したフランスの会社である。ビックのデザイナーたちはポリスチレンの透明な円筒を採用し、ピンホールを開けて圧力を一定にするようにした。二〇〇五年にビックはクリスタルボールペンを一千億本製造し、世界中の百六十か国で一日あたり千四百万本が売れている。ただし、アルギータのトロールで拾ったことはない。硬いポリスチレンはふつう沈むからだ。海底にはおそらく数百万本が横たわっているだろう。
 フェルトペンは、トロールにかかる。中空なので、よく浮くからだ。他にも、たとえば使い捨てライターなども中空なので浮く。ビックのライターは1973年に販売が始まり、市場シェアはジレットクリケットライターに次いで二位だった。けれど、ビックのライターはクリケットの半値で、ジレットは一位の座を一九八四年に明け渡した。今ではビックの競争相手は中国のコピー品で、卸値は四分の一以下である。ビックは毎年二億五千万個のライターをアメリカ国内で販売し、売れ高世界一位を誇る。
 しかし、三千回の着火が保証されたビックライターとその類似品は、コアホウドリが摂食した場合、致命的である。ビックのスポークスマンは、人里遠く離れた島にいるコアホウドリの幼鳥の内臓に、使い捨てライターが見つかることに「困惑している」が、ビック製はあったとしてもごくわずかだと主張している。それは私たちがいずれ明らかにする。日本の研究者が、世界中で発見された使い捨てライターの情報提供を呼びかけている。刻印からその流出元をさぐろうとしているのだ。ライターは漁船で大量に使われるが、人里離れた砂浜で見つかったものの中には陸地から来たと思われる分も多い。p.108-9

「日本の研究者」というのは、海から来ましたのようだ。使い捨てライターの製造元ってのも、全然知らないものだな。

 プラスチックは経済成長の動因でもあり、結果でもある。アメリカでは、製造産業の上位五社はプラスチック業界と化学業界が占める(二〇〇〇年代初めのピークに比べれば、海外移転とオートメーション化で三割減っているにもかかわらず)。しかし世界では、プラスチックと密接に関わるパッケージ業界がプラスチック業界以上に巨大で、食品業とエネルギー産業に次いで第三位を占める。
 他の巨大企業に比較すると、パッケージ会社は存在感が希薄だ。公には宣伝しないし、エンドユーザーは消費者ではなく小売業者で、消費者はパッケージを買うのではなく内容物を買う。ただしパッケージと内容物は切り離せない。パッケージには、内容物を入れるだけでなく、買い物客をひきつける役目もある。p.131-2

 BtBの企業だけに、全然知らないよなあ。こんな記事が→グリーン・パッケージ業界が米国市場で記録的成長

 カリフォルニア州は二〇一〇年に、もう少しで超軽量のレジ袋を禁止するところまでいったが、アメリカ化学協議会が強力な巻き返しに出て、州議会議員に対する陳情をくり広げ、これを頓挫させた。カリフォルニアのハイウェイの管理維持に当たるカリフォルニア運輸局は、年間千六百万ドルをポリ袋だけの排除に費やす。カリフォルニア州の集計では、一年に百九十億枚の使い捨て袋が手渡されていて、その五パーセントだけがリサイクルされる。
 バングラデシュでは、一日に九百三十万枚の袋が通りにさまよい出ていることが、調査で判明した。それが暴風雨のさいの排水路を詰まらせるので、モンスーンによる洪水は規模が拡大し、飲料水媒介の致死性伝染病が蔓延する。二〇〇二年、バングラデシュではポリ袋が禁止された。薄いポリ袋は、中国、ムンバイ、南アフリカエリトリアルワンダソマリアタンザニアケニアウガンダでも禁止されている。p.140-1

 レジ袋の「社会的費用」。野生動物への被害や、この種の出費を考えると、レジ袋の削減は重要と。熊本でも増水の後に木に引っかかっているのは、レジ袋が多いしな。

 昔からずっと、植物由来で一〇〇パーセント生分解性の包装に頼ってきた、ごみ収集システムのない地域の人々の生活に、プラスチックが入りこんでいるのを正当化するために衛生管理学が利用されているのを知ると悲しくなる。実際は、東アジアの川にごみの島が出現しているのだ。使い捨てプラスチックが途上国に流れこみつづければ、今のところはまだ神話とされている、過流のプラスチックの島ができ上がるだろう。国連環境計画のデイヴィッド・オズボーンは、ブリュッセルで開かれた欧州委員会の海洋ごみ投棄に関するワークショップで、プラスチック包装にアメリカのタバコのラベル表示と同様のものをつけてはどうかと提案していた。「プラスチックのごみ投棄は野生生物に窒息、飢餓、拘禁などの脅威を与える」と記すのだ。p.151

 プラスチックパッケージがごみ収集システムに負荷を与えているのは確かだよなあ。まあ、生ごみでも何十万人分もたまると立派に健康への脅威となるわけだが。

 プラスチックが地上の食物連鎖に入りこんでいることも、ドバイのラクダやインドの牛を例としてすでに説明した。じつは、人間の食物網に、意図的にプラスチックを混入させている産業がある。一九七〇年代から一部飼料業者は、肉牛の「肥育期濃厚飼料」に樹脂ペレットを混ぜているのだ。「食物繊維」のように栄養の吸収と肥育を促進することが証明されているから。では、プラスチックが混入した肥やしが堆肥になり、農地に混ぜられたらどうなるのだと思ってしまう。p.249

 えー。あんまり食べさせるものではなさそうな気がするが…

 現在までのインターナショナル・ペレット・ウォッチの調査結果は、「海洋漂流プラスチックが地球規模で運ぶ微小有機汚染物質」という表題で発表されている。高田教授が執筆者で、私をふくめ十三名の共同執筆者がいるが、締めくくりは彼が書いた。「外洋や離島の沿岸でも、ノニルフェノールやデカプロモジフェニルエーテルなど、添加剤として使われた化学物質が高濃度で見出される。外洋や離島でプラスチック添加物質が生態系へ及ぼす脅威は、海水から吸収された化学物質より深刻である」p.262

 プラスチックの材料のペレットの話。汚染物質を吸収するから環境汚染の指標になるとか、流通が改善されて放出は減り気味とか、魚の卵と間違えて食う生き物がたくさんいるとか。
海岸漂着プラスチックペレットを使った海洋汚染モニタリング
ペレットウオッチ - 東京農工大学

 アルガリータ海洋調査財団は他のグループとともに、原材料の管理改善を企業に働きかける努力を続けている。マイクロプラスチックの中で問題なのは、じつは大きさが数ミリのペレットとプラスチック片だけではない。商業目的のために。はじめからその形に生産された微細プラスチック〔一ミリ以下のもの〕というのがある。たとえば研磨剤や掃除用コンパウンド、塩ビ管や回転成型のための原料となるプラスチックの粉、美顔用クレンジング剤にふくまれる皮膚摩擦剤である。これらが下水もしくは排水溝に流れると、大半は下水処理とごみの堰き止め柵をくぐり抜けて川や海に流れ出る。船体掃除に使われる樹脂研磨剤もある。p.284

 そういうのもあるのか…