- 作者: 山本博文
- 出版社/メーカー: 東京書籍
- 発売日: 2008/07/26
- メディア: ハードカバー
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江戸城の日常生活、参勤交代の話、「武士道」、武士の出世とエピソード、武士の勉学、近世の天皇と公家の話など。武士のほうはともかく、公家の世界は、あまり見かけない話でおもしろかった。公家の世界で格式や官職が重視されたってのは、やはり実権がないからだろうな。中身がないからこそ、外観重視というか。公家は官職の面では大名と同格であったが、だからこそ、明治維新後、華族となってやりくりに苦しんだというのも興味深い。
あとは、将軍がけっこうエグいお遊びをやっていた話。家斉が幼少時、小さいカニを放して、それを踏み潰して遊んでいたとか。屏風で囲った中に御典医を入れて外から物を投げ込む。投げ込まれたものが拝領品になるなど。初期には、鷹狩りなど、軍事訓練を兼ねた外遊びや大名の邸に遊びに行く「お成り」などがあったが、だんだん江戸城から出なくなる。あるいは、幕末には、将軍も忙しくて、遊んでいる暇がなくなるとか。
旗本や奥女中の出世コースや本丸御殿のどこで起居していたかとか、こまごまとした話。葉隠がいわば「面子」を失わないことを説いていたとか、幕末に最後まで江戸幕府を維持しようとしたものや江戸時代初期に殉死したものに、下級の武士が多かったこと。抜擢や細かい交流が、こういう行動に駆り立てたとか。
学問の話も興味深い。番方の中堅武士があまり学問に熱心ではなかったこと。逆に、下級の右筆あたりの家の方が、家職に関わるだけに切実だったという。あと、ここで言う「無学」がどこまで、「無学」だったのか。儒教にはまった人間の証言だしな。現代でも、哲学方面に興味を持たない人間はいくらでもいるし、様式なんかの知識がないと書類が書けないってこともあるだろうし。ついでに言えば、近世の書体は統一性がないから、読めない文字は読めなかったのではなかろうか。
雑誌への連載を再構成したものだけに、読みやすく、江戸時代の日常的なこまごまとしたことに対する知識が得られる本ではあると思う。まあ、毒にも薬にもならないって側面もあるが…